国家公務員の人事評価とは?昇格への影響や改善の動きを元職員が解説

国家公務員の人事評価とは?

国家公務員の人事評価は、就職を検討中の方や内部の職員にとって、希望するキャリアを歩むために理解しておくべき制度です。

しかし、「複雑でよくわからない」「出世や給料にどう影響するのか」「実際の運用はどうなっているのか」など、疑問を感じている方も多いのではないでしょうか。

本記事では、元国家公務員の筆者が、人事評価の内容や昇格・昇給への影響、運用の実態、改善の動きについて経験を交えて解説します。

人事評価の仕組みを理解すれば、自身のキャリアをより戦略的に設計できるようになります。ぜひ最後までご覧ください。

目次

国家公務員の人事評価とは

国家公務員の人事評価とは

国家公務員の人事評価は、職員が業務に取り組むにあたって発揮した能力と業績を評価する制度です。各省庁における人事管理や人材育成の基礎データとして活用されます。

ここでは以下の3つのポイントに分けて説明します。

  • 能力と業績の2つの評価軸がある
  • 6段階で評価がつく
  • 年を2タームに分けて行われる

【参考】人事院「人事評価

能力と業績の2つの評価軸がある

国家公務員の人事評価には、能力評価と業績評価の2つの評価軸があります。

能力評価は、職員が業務で発揮している能力を幅広い視点から評価する制度です。主に以下の評価項目があります。

能力評価の項目
  • 公務員の倫理を守れているか
  • 必要な知識やスキルを習得できているか
  • 円滑なコミュニケーションを取れているか
  • 意欲的に仕事をしているか

一方、業績評価は、職員が実際に取り組んだ業務への取り組みを評価する制度です。

公務員の仕事は数字の実績がないため、取り組んだ内容について定性的に評価されます。

6段階で評価がつく

国家公務員の人事評価は、能力評価・業績評価ともに6段階で評価を行います。評価の基準は以下の6つです。

6段階評価の基準
  • 卓越して優秀(常に高い水準を大きく上回る)
  • 非常に優秀(頻繁に高い水準を上回る)
  • 優良(しばしば高い水準を上回る)
  • 良好(基本的に高い水準の行動をとる)
  • やや不十分(望ましい行動がとられない場合が多い)
  • 不十分(望ましい行動がとられない)

自身で評価を行ったうえで、上司によってあらためて正式な評価が行われます。

制度上は基本的に「良好」が標準とされており、それより上の評価を得るためには優れた能力や業績が必要という整理です。

年を2タームに分けて行われる

国家公務員の人事評価は、年を2タームに分けて行われます。

業績評価は「10月1日~3月31日」「4月1日~9月30日」の半年ごとに行った業務を評価します。

一方で、能力評価は「10月1日~9月30日」の通しで年1回行われるのが違いです。

つまり、年に2タームで、業績・能力あわせて合計3回の評価が行われます。

国家公務員の人事評価の昇格・昇給・待遇への影響

国家公務員の人事評価の昇格・昇給・待遇への影響

国家公務員の人事評価の昇格・昇給・待遇への影響について、主に以下の3つのポイントがあります。

  • 昇格のためには一定以上の評価が必要である
  • 基本給の昇給スピードが異なる
  • ボーナスの金額が増減する

公務員の業務は民間と異なり、数字で実績が表れにくいのが特徴です。

その中でもできる限り能力や成果に応じた評価がなされる仕組みになっています。

【参考】人事院「人事評価ガイド 2024.04 ver.

昇格のためには一定以上の評価が必要である

国家公務員が昇格(昇任)してより上位の職員に付くためには、一定以上の評価を得る必要があります。

国家公務員では、以下の図のとおり一つ上の職務の級に上がることを昇格と呼び、役職が上がることを昇任と呼びます。

国家公務員の昇給・昇任
出典:人事院「人事評価と評価結果の活用

昇格のためには、直近2年の評価をすべて「良好」(平均的な評価)以上、うち2回は「優良」以上を取る必要があります。

また、課長に昇任するためには、直近2年で「非常に優秀」を1回、「優良」を1回ずつ取る必要があります。

基本的には、マイナス評価を取らなければ昇格・昇任できるレベルに設定されているのがポイントです。

基本給の昇給スピードが異なる

国家公務員の人事評価の差によって、基本給の昇給スピードが異なります。

昇給は毎年1月1日に行われ、5段階の昇給区分(A~E)によって増加幅に差があるのが特徴です。

以下の図のとおり、直近1回の能力評価と直近2回の業績評価に応じて昇給区分が決まります

国家公務員の昇給スピード

国家公務員の基本給は「号俸」という数字で決まっており、標準の評価であるCだと4号俸上昇し、評価が一つ変わるごとに2号ずつ上昇幅が変わります。

たとえば、勤続年数が数年の係員のA評価とC評価を比べると、4号俸の差がつき、月収の増加幅はおよそ7,000円ほど、年収の増加幅は8万円ほど異なる計算です。

ただし、予算の制約があるのでA評価は全体の5%、B評価は20%までと決められている点に注意する必要があります。

【参考】人事院「俸給表」

ボーナスの金額が増減する

国家公務員の人事評価によって、ボーナスの金額も異なります。

ボーナスは勤勉手当と期末手当からなり、月収の4.5月分の金額です。

業績評価に応じて、ボーナスのうちの半分を占める「勤勉手当」が以下の表のように増減します。

成績増減幅業績評価
特に優秀119%~200%非常に優秀以上
優秀107.5%~119%優良以上
良好96%良好以上
良好でない87.5%やや不十分以上
出典:人事院「国家公務員の諸手当の概要」

たとえば、勤勉手当の基本額が40万円の場合、増減幅は35万円~80万円にもなります。

【関連記事】
国家総合職の年収は低い?年齢別のモデルケースや事例を元職員が解説
国家一般職の年収は低い?モデル給与や地方公務員との比較も紹介

元職員が分析!国家公務員の人事評価の運用実態

国家公務員の人事評価の運用実態

国家公務員の人事評価の運用実態について、以下の2つに分けて説明します。

  • 人事評価と昇給区分の割合にはズレがみられる
  • 能力や成果に応じた昇給の度合いには改善の余地がある

人事院のデータや、元国家公務員の筆者の経験を踏まえて、制度だけではみえない実態を分析します。ぜひチェックしてください。

【参考】人事院「人事評価と評価結果の活用

人事評価と昇給区分の分布にはズレがみられる

人事院の公表情報によると、国家公務員の人事評価と昇給区分の割合にはズレがみられます。

まず、能力評価の分布は以下のとおりです。

国家公務員の評価の分布
出典:「第5回 人事行政諮問会議 事務局説明資料」(令和6年1月23日)
※現在の6段階評価になる前の5段階評価のデータです。

幹部職員では最高のA評価が全体の8割以上、課長級以下の一般職員でもSとAを合わせて6割以上が上位の評価を取得しています。

一方、人事評価を元にした昇給区分の分布は以下のとおりです。

国家公務員の昇給区分の分布
出典:「第5回 人事行政諮問会議 事務局説明資料」(令和6年1月23日)

いずれの年齢層の職員も標準であるC評価が全体の6割~7割を占めています

つまり、人事評価で高評価を得ているものの、昇給には反映されていない職員がいるのが運用の実態です。

能力や成果に応じた昇給の度合いには改善の余地がある

前項のデータを見ると、能力や成果に応じた昇給の度合いには改善の余地があるといえます。

ズレが生じるもっとも大きな要因は、予算の制約があるため、昇給させられる人数に限界があることです。

筆者が国家公務員として働いていた際にも、一つの部局の中でA区分を付けられるのが数人と限られていました。

そのため、同じように頑張っている職員でも異なる評価が付くことがあり、職員の不満につながっている実態がありました。

制度全体を見直して、よりメリハリをつけられる評価と昇給の仕組みを設計することが求められます。

国家公務員の人事評価を改善する動き

国家公務員の人事評価を改善する動き

近年は、国家公務員の人事評価を改善する動きがあります。

とくに、若手を中心に離職率が高まっていることも踏まえて、職員のエンゲージメントを高める取り組みが進められています

たとえば、令和6年以内に適用する制度として、成績が優秀な職員へのボーナス上限を引き上げる、管理職の基本給を職責に応じたものへ見直すなどが検討されています。

また、上記はあくまで全体としての動きです。各省庁においても、職務や個人の能力に応じた評価体系の検討が進められています

【参考】人事院「就活中の皆さまへ

国家公務員の人事評価の変化を今後も注視していこう

国家公務員の人事評価に関するまとめ

本記事では、国家公務員の人事評価の内容や昇格・昇給・待遇への影響、運用の実態、改善の動きについて解説してきました。

人事評価は能力と業績の2軸・6段階で評価され、昇給やボーナスに一定の影響を与える重要な仕組みです。

一方で、評価結果の分布と昇給の実態にはズレがあり、メリハリをつけにくい側面もみられます。

そのため、優秀な職員の処遇をさらに引き上げるなど、人事評価の改善に向けた動きが進められています。

国家公務員を目指す方も、すでに働いている方も、人事評価とその変化を注視して今後のキャリア形成の参考にしていただければ幸いです。

なお、本メディアでは、国家総合職や国家一般職それぞれの仕事内容に関する記事も掲載しています。

【関連記事】
国家総合職とは?仕事の魅力や一般職との違いについて元職員が解説
国家一般職とは?やめとけといわれる理由や働くメリットについて解説

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

筆者は新卒から国家公務員を約7年間勤め、政策の企画立案・調整、調査研究、国会の対応など多岐にわたる業務に取り組んできました。

現在はフリーランスとしてチームを組んで受託事業を中心に取り組みつつ、自身のビジネスも幅広く展開しています。

コメント

コメントする

目次