国家総合職は、国家公務員の採用区分の一つであり、国の重要政策の企画立案・調整を担う魅力的な仕事です。
しかし、総合職は職員の数が少なく、その仕事内容や実態に関する情報は十分に出回っていません。
「具体的にどんな仕事をするのか」、「一般職との違いがわからない」、「キャリア官僚は自分には難しそう」など、疑問や悩みをお持ちの方もいるのではないかと思います。
国家総合職は政策の上流工程に携わり、若くから大きな政策プロジェクトの中心となって働けるなど、大きなやりがいがあります。
試験や採用の難易度は高いとイメージされがちですが、幅広い大学出身者に採用実績があり、多くの方に可能性があるのも事実です。
本記事では、国家総合職の概要や一般職との違い、仕事の魅力、働き方・給料の特徴、倍率・難易度、なるための流れについて、元職員が経験を踏まえて解説します。
国家総合職を就職先の選択肢とすべきかしっかりと判断できるよう、ぜひ最後までご覧ください。
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国家総合職とは
国家総合職とは、国家公務員の採用区分の一つであり、主に国の政策の企画立案や調整に取り組む仕事です。
かつての国家公務員一種(国家一種)にあたり、世間ではキャリア官僚と呼ばれることもあります。
各省庁の幹部候補として登用され、通常2年ごとに部署を異動して、ジェネラリストとしてのキャリアを歩むのが特徴です。
人事院のデータによると、行政職の国家公務員全体の約15.5万人のうち、総合職と国家一種の人数は約1.2万人であり、全体に占める割合は10%以下の少数派といえます。
(参考:人事院「令和4年度 年次報告書」)
国家総合職の主な業務としては以下のとおりです。
- 重要な政策の企画や立案(意思決定をする幹部を直接支える)
- 法令の改正(方向性の検討から改実務作業まで)
- 部局全体のマネジメント(担当の部署に仕事を振っていく)
- 国会議員へのレクチャーや国会答弁の作成
企画や取りまとめの部署に配属されることが多く、意思決定やマネジメントに関わるキャリアを歩んでいきます。
元職員が分析!国家総合職と一般職の違い
国家総合職と国家一般職の違いは、仕事における役割と昇進のスピードの2つです。
それぞれについて、霞ヶ関で働く国家公務員を念頭に比較を行います。
元職員の視点からできるだけ具体的に説明するので、ぜひ参考にしてみてください。
【関連記事】「国家一般職とは?やめとけといわれる理由や働くメリットについて解説」
仕事における役割が異なる
国家総合職が部局全体の企画立案を担うのに対し、国家一般職が各事業や調査の設計・実行を行うなど、仕事における役割に違いがあります。
たとえば、部局がある産業を担当しているときに、国家総合職は以下のような重要論点を整理して、1枚のペーパーにまとめていくような仕事です。
- 部局が所管する分野の現状や課題はなにか
- 課題解決のために何が必要か
- どういったスケジュールで取り組みを進めていくか
一方で国家一般職は、部局の幹部や総合職が検討した方針を踏まえ、以下のような事業・調査レベルで検討や実務を担う仕事です。
- 事業・調査はどこを対象にして、どういった基準を設けるのが望ましいか
- 予算は具体的にどれくらい必要になるか
- 事業の実施のために自治体や企業とどう連携するか
一つの部局の中で、全体の取りまとめの仕事を行う少数の総合職、事業の実務を担う一般職という役割分担の構図ができます。
昇進のスピードに差がある
国家総合職と国家一般職は昇進のスピードに差があります。
人事院の資料によると、総合職が年次ごとに昇進する流れは以下のとおりです。
職務の級は係員である2級の係員から始まり、係長になるまで約3年、課長補佐になるまで約7年、課長になるまで約22年かかります。
課長補佐は、担当の政策分野の実務を回すリーダー的な存在であり、総合職の場合は30歳くらいからその立場になれるのがポイントです。
一方で、国家一般職の場合は1級から始まり、係長になるまで約8年、課長補佐になるまで約17年、課長になるまで約33年であり、課長にならない人も多くいます。
基本的に総合職と一般職では人事のグループが分かれており、昇進のスピードの差はいまだ大きいのが実態です。
【関連記事】「国家公務員の人事評価とは?昇格への影響や改善の動きを元職員が解説」
【経験談】国家総合職の仕事の魅力
国家総合職の仕事の魅力について、筆者の経験をもとにまとめると以下の3つです。
- 政策の方針を決める上流工程に携われる
- 若くから大きなプロジェクトの中心メンバーになれる
- 政治に近い位置で政策が決まる過程をみられる
外部からは見えづらい仕事の面白さを具体的にお伝えするので、ぜひ参考にしてみてください。
政策の方針を決める上流工程に携われる
政策の方針を決める上流工程、つまり大枠の意思決定に携われるのが、国家総合職の最大の魅力です。
部局が所管するテーマに関する大きな方針を検討する部署は、総合職の課長や課長補佐、係長、係員で固められています。
コロナのような大きな政策課題が起きたときや、総理大臣から経済対策の指示が出たときなどに、以下のような政策の重要事項を急ピッチでまとめる仕事です。
- 部局が目指すべき方向性や個別の課題は何か
- 必要な予算や制度改正は何か
- 優先順位をどうつけて、外部にどう説明するか
総合職を中心とした事務方の仕切りでまとめた資料が、意思決定者の判断に活用されます。
実際に筆者の係長時代の経験として、部署のさまざまな人の協力を得ながら作成した資料が、上司によってブラッシュアップされ、最終的に省庁の大臣や総理の判断に活用されたこともありました。
まさに政策の方向性を決める大きな流れの一端に携われるのが、総合職の醍醐味であるといえます。
若くから大きなプロジェクトの中心メンバーになれる
国家総合職の職員は若くから大きなプロジェクトの中心メンバーになれるのも、魅力の一つといえます。
総合職の若手職員は、部局の中でも各担当を取りまとめる部署の連絡係として配属されることがほとんどです。
取りまとめの部署では上流工程に携わるのはもちろん、それを実行するために多くの部署や他省庁の職員に仕事をお願いする必要があります。
たとえば、筆者が実際にプロジェクトを進めるにあたって関わった人は以下のとおりです。
- 部局内の幹部や多くの担当課の職員
- 各省庁の取りまとめの担当者
- 各自治体の担当者
- 大学教授やNPO法人などの民間有識者
- 海外の政府関係者や調査機関
プロジェクトを進める際に、窓口となって外部と連絡・調整を行うのは係長や係員の仕事であり、窓口を担う中で自然と一番詳しい中心メンバーになれます。
まさに大きなプロジェクトを回していく実感を得られるのが、国家総合職の仕事の醍醐味です。
政治に近い位置で政策が決まる過程をみられる
政治に近い位置で大きな政策が動く姿を目の当たりにできるのも、国家総合職ならではの魅力です。
政策はエビデンスベースで公務員がボトムアップで立案するものもあれば、コロナ禍の経済政策のように政治的にトップダウンで決まっていくものもあります。
政治的なマターは総合職の中でも部局の幹部レベルのみが関わるものですが、そうした議論の場に同席して、細かい知識面で幹部をサポートすることも少なくありません。
実際に筆者も若手ながら幹部のお供をするかたちで、コロナ禍で大きな事業や予算が決定するプロセスを目の当たりにし、そのダイナミックさや機微を知ることができました。
また、国会の対応時には係長・係員ながらも、自身が政府の代表者として国会議員に説明を行う経験を得られました。
国の政策の大きな方向性が決まる過程をみられて、ときにはその一端に携われるのは国家総合職にしか経験できない仕事の一つです。
国家総合職の働き方や給料の特徴
国家総合職の働き方や給料の特徴は以下のとおりです。
- 残業時間は多いが時期によって差が大きい
- 給料は残業代によって大きく異なる
仕事自体はやりがいに溢れたものですが、働き方のブラックさや給料の低さについてネガティブな話題が多く、心配な人も多いかと思います。
できるだけ実態に即した形でお伝えするので、ぜひ参考にしてみてください。
残業時間は多いが時期によって差が大きい
国家総合職の働き方として残業時間は多いものの、時期によって差が大きいのが特徴です。
人事院の調査によると、国家公務員の月平均の残業は約30時間程度という結果が出ています。
(出典:人事院「令和5年国家公務員給与等実態調査の結果」)
しかし、国家総合職は国会対応や法律改正の部署に配属されることが多く、何ヶ月間も月80時間を超えて残業する職員は少なくありません。
一方で、国会対応などの業務があまり発生しない時期には、月平均の残業時間が30時間程度になることもあります。
特に7月~8月は落ち着いていることが多く、夏期休暇を好きなタイミングで取れることがほとんどです。
時期によって差が大きく、メリハリを付けた働き方がしやすいのは押さえておくべきポイントといえます。
【関連記事】「国家公務員は本当に激務?省庁のランキングや事例について解説」
給料は残業代によって大きく異なる
国家総合職の給料に関しては、残業代によって大きく異なる点が特徴といえます。
まずベースとなる基本給について、年齢別のモデルケースは以下のとおりです。
役職 | 年齢 | 月収 | 年収 |
---|---|---|---|
係員 | 22歳 | 25万円 | 406万円 |
課長補佐 | 35歳 | 44万円 | 731万円 |
課長 | 50歳 | 75万円 | 1,272万円 |
局長 | – | 108万円 | 1,791万円 |
事務次官 | – | 141万円 | 2,349万円 |
係員の初任給が月収25万円(年収406万円)で、業務の中核である課長補佐は月収44万円(年収720万円)が目安といえます。
上記金額だけみると、大手の民間企業などと比べてどうしても見劣りするのは事実です。
しかし、実際は忙しい部署に配属されることが多く、基本給に残業代が足されるので額は大きく上振れます。
たとえば、係員の残業代は時給換算で1,500円~2,000円であり、もし月80時間残業すると月収は約40万円、年収は500万円以上です。
もし月の残業時間が30時間程度の場合には月収30万円程度にとどまることも踏まえると、季節労働的な側面が大きいといえます。
【関連記事】「国家総合職の年収は低い?年齢別のモデルケースや事例を元職員が解説」
倍率と出身大学からみる国家総合職の難易度
国家総合職になる難易度を示すポイントは以下のとおりです。
- 人事院主催の試験の倍率は高めである
- 幅広いレベルの大学に合格・採用実績がある
総合職はやりがいがありそうで気になるものの、自分には難しそうと考えている方はぜひチェックしてみてください。
人事院主催の試験の倍率は高めである
人事院主催の国家総合職試験の倍率は例年高く、直近2023年度のデータは以下のとおりです。
試験区分 | 申し込み者数 | 合格者数 | 倍率 |
---|---|---|---|
春試験(大卒程度) | 12,886人 | 1,360人 | 9.5倍 |
春試験(院卒者) | 1,486人 | 667人 | 2.2倍 |
秋試験(大卒程度) | 4,014人 | 423人 | 9.5倍 |
出典2:人事院「2023年度国家公務員採用総合職試験(大卒程度試験)教養区分の合格者発表」
国家総合職試験は春と秋に年2回開催され、それぞれ申し込みできます。
特にもっとも受験者数の多い大卒程度の春試験をみると、申込者数12,886人に対し合格者数は1,360人であり、倍率は9.5倍と高いのが実態です。
また、試験に合格してから各省庁に採用される倍率はさらに3倍程度であり、国家総合職になる難易度は全体として高いといえます。
幅広いレベルの大学に合格・採用実績がある
国家総合職は難易度が高いものの、幅広い大学に合格・採用実績があるのも事実です。
人事院主催の試験について、合格実績のある主な大学は以下のとおりまとめられています。
上記はあくまで10人以上合格の大学に絞っており、実際にはより多くの大学から合格者が出ています。
東京大学を中心とした難関大学出身者が多いものの、幅広いレベルの大学で合格者が出ているのがポイントです。
また、採用についても、たとえば環境省の総合職事務系の内定者パンフレットをみると、以下のように様々な大学から採用されていると分かります。
- 神戸大学
- 横浜国立大学
- 関西大学
- 千葉大学
- 東京外国語大学
【参考】環境省「令和6年度環境省総合職事務系「内定者の声」」
かつては国家総合職試験は東大・京大出身者が大半を占めていた時代もありましたが、近年はその傾向がなくなりつつあります。
難易度は高いものの、しっかりと試験対策・面接準備を行えば乗り切れる可能性が十分にある試験です。
国家総合職になるための流れ
国家総合職になるための流れとしては以下の3つです。
- 情報収集して志望省庁を決める
- 人事院主催の試験に合格する
- 面接選考である官庁訪問を突破する
それぞれについて、元職員の視点から重要だと思うポイントを説明していきます。
【関連記事】「国家公務員の経験者採用とは?難易度や合格する人の特徴も解説」
STEP1.情報収集して志望省庁を決める
国家総合職になるためには、まずは情報収集して志望省庁を決める必要があります。
省庁に関する情報を集められる場の具体例は以下のとおりです。
- 人事院主催の合同説明会、各省庁主催の個別説明会
- 各省庁の個別相談会やOB訪問
- 各省庁の採用パンフレットや内定者パンフレット
特に元職員の目線でお伝えすると、以下の点に気を付けるとより身のある情報収集になります。
- ホームページに載っている一般論を調べあげた上で、個別具体的なことを聞く
- 省庁全体の話ではなく、説明する職員だからこそ話せる政策論やキャリア観について質問する
- 採用面接の際にネタとして話せる情報を獲得することを意識して質問する
各省庁は、説明会の場で仕事の魅力をPRするために入念な準備を行っています。
多くの場に足を運び、就職の判断につながる一次情報を集めて、国家公務員や省庁への志望を固めていくのがおすすめです。
【参考】人事院「総合職案内」
STEP2.人事院主催の試験に合格する
国家総合職として採用されるためには、人事院が主催する国家総合職試験に合格する必要があります。
試験は以下のとおり春試験・秋試験の年に2回あり、合格すれば各省庁の面接を受ける権利を獲得可能です。
項目 | 春試験(専門試験) | 秋試験(教養区分) |
---|---|---|
区分 | 大卒程度・院卒者 | 大卒程度 |
実施時期 | 3月~5月 | 9月~11月 |
試験の内容 | 【一次試験】 ・基礎能力試験 ・専門試験(択一) 【二次試験】 ・専門試験(記述) ・政策論文試験 ・人物試験 【その他】 ・TOEIC等による加点 | 【一次試験】 ・基礎能力試験 ・総合論文試験 【二次試験】 ・政策課題討議試験 ・企画立案試験 ・人物試験 【その他】 ・TOEIC等による加点 |
受験するタイミング | ・大学3年春以降 ・院に在学中 | 大学2年から受験可能 |
かつては専門試験のみでしたが、近年は少しでも多くの受験生に門戸を開くため、専門の勉強が不要な教養区分を大学2年から受験可能にするなど間口が広がっています。
試験の合格に向けて、元職員の目線で留意して欲しいポイントは以下のとおりです。
- 試験はあくまで最低限の事務処理能力をみるスクリーニングである
- 効率的に勉強して、民間との併願や志望省庁の情報収集などの職業選択に力を入れるべきである
- 合格には情報が鍵を握るので、大学のコミュニティや予備校を積極的に活用するのが望ましい
最小限の努力で人事院の試験をパスできれば、国家総合職の採用が大きく近づきます。
【関連記事】「国家総合職試験の完全ガイド!概要や難易度、合格に必要な戦略を解説」
STEP3.面接選考である官庁訪問を突破する
国家総合職試験の合格後には、面接選考である官庁訪問を突破する必要があります。
官庁訪問とは人事院の試験の合格者と各省庁をマッチングする仕組みであり、一人あたり10回を超える面接を実施するのが特徴です。
例年、夏と秋の2回開催され、2024年夏のスケジュールは以下のとおり公表されています。
夏の官庁訪問は6月か7月に実施され、約2週間ほどの期間をかけて行われる大がかりな面接試験です。
基本的に夏に採用がほぼ決まり、冬は採用数が予定どおりにならなかった場合などの補足の位置付けといえます。
官庁訪問の突破に向けて重要なポイントは以下のとおりです。
- 情報戦の性質が特に強いので、説明会やOB訪問へ積極的に足を運ぶ
- 特に官庁訪問はその場での質問力が問われるなど、民間の面接と大きく異なることを理解する
- よい志望動機があるのと、それを面接で伝えられるのは別の準備が必要なので、練習で他者から厳しい指摘をもらう
【関連記事】「国家総合職の官庁訪問とは?落ちる理由や対策について元職員が解説」
魅力的な仕事である国家総合職を前向きに検討しよう
本記事では、国家総合職の概要や一般職との違い、仕事の魅力、働き方・給料の特徴、倍率・難易度、なるための流れについて、元職員の視点から解説してきました。
国家総合職は国の政策の企画立案・調整を行う仕事であり、昇進のスピードが早い採用区分です。
特に政策の上流過程に携われたり、若くから大きなプロジェクトの中心メンバーになれたりするなど、国家総合職ならではの魅力が多くあります。
倍率からすると難易度は高いといえますが、幅広いレベルの大学に門戸が開かれているのも事実です。
本記事が、国家総合職を就職先の有力な選択肢の一つとして考え、人事院の試験や官庁訪問を突破するきっかけとなれば幸いです。
また、実際に働く職員や経験者に直接話を聞けば、仕事の魅力をいっそう理解できます。
本メディアでは、国家公務員を目指す方への相談サービスを行っています。
国家総合職の仕事をより一層魅力を感じ、採用試験に自信をもってチャレンジできるようサポートするので、ぜひ検討してみてください。
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