国家公務員の経験者採用(中途採用)とは、民間企業などで経験を積んだ人材を採用する制度であり、各省庁も積極的に取り入れるなど注目が高まっています。
一方で「経験者採用の仕組みを知りたい」「合格する基準は厳しいのではないか」など、疑問や悩みをお持ちの方もいるのではないでしょうか。
本記事では、元国家公務員の筆者が、国家公務員の経験者採用の概要や難易度・倍率、合格する人の特徴、対策について、経験を交えて解説します。
合格に向けた正しい方向性で準備ができるよう、ぜひ最後までご覧ください。
その他の採用区分について以下の記事を掲載しています。
国家公務員の経験者採用とは
国家公務員の経験者採用(中途採用)とは、民間企業などでさまざまな実務経験を積んだ方を対象に、各省庁の係長級以上の即戦力として採用する試験のことです。
経験者採用は、多様な行政課題に対応できる人材を幅広く採用するために行われています。
国家公務員は新卒入省組が多いため、国民の様々なニーズや課題に目が行き届きづらいと指摘されることがしばしばです。
近年は離職率の高まりもあり、即戦力かつ新しい視点をもたらす外部からの人材がより求められています。
民間企業で培われた公務への問題意識や、課題解決力・調整のスキルなど、まさに経験を活用できる人材の採用が目的です。
人事院の採用試験と各省庁の選考採用がある
国家公務員の経験者採用には、人事院が省庁横断的に行う採用試験と、各省庁が独自に行う選考採用の2種類があります。
人事院が主催する採用試験は、毎年8月頃に申し込みを行い、試験は10月頃に行われます。
人事院の採用試験の流れは、以下のとおりです。
- 受験申込:提出書類を確認し、申し込みを行う
- 第1次試験:基礎能力試験(多肢選択式)、経験論文試験(勤務経験に関する論文)を受ける
- 第2次試験:政策課題討議試験、人物試験を受ける
- 官庁訪問:合格後、希望する省庁を訪問し、面接を受ける
第1次試験と第2次試験に合格し、官庁訪問で内定を得られれば、国家公務員として採用されます。
一方で、各省庁が独自に実施する選考採用は、人事院の採用試験となり、通年で行われていることが特徴です。
募集内容や採用プロセスは省庁によって異なりますが、一般的には以下のように進んでいきます。
- 応募:各省庁のホームページから募集要項を確認し、応募する
- 書類選考:提出した応募書類や小論文をもとに、書類選考が行われる
- 面接:書類選考を通過した志望者に対して、面接が行われる
各省庁による候補の場合、応募から内定までのスケジュールは省庁によって大きく異なります。
内閣官房のページも参考に募集情報を随時チェックし、適切なタイミングで応募することが重要です。
参照:人事院「社会人の皆さんへ(中途採用に関する情報)」
参照:内閣官房「公募情報一覧」
課長補佐級と係長級が主な採用のランクである
国家公務員の経験者採用は、採用の区分が役職で分けられており、課長補佐級と係長級が主な採用のランクです。
部署の役職として、通常、課長・室長・課長補佐・係長・主査・係員のラインがあります。
課長補佐は実務の中心となるリーダーで、係長は実作業のかなめとなるメンバーです。
社会人経験者として採用されるので、入省後は課長補佐・係長いずれであっても、早速マネジメントの役割を求められるといえます。
なお、このほかにも就職氷河期世代や任期付き職員の採用もあり、人事院や各省庁のホームページに詳細が掲載されています。
参照:人事院「国家公務員 中途採用者選考試験(就職氷河期世代)」
参照:内閣官房「公募情報一覧」
国家公務員の経験者採用の難易度・倍率
国家公務員の経験者採用試験(係長級)の直近の採用倍率は10倍を超えており、難易度は高いといえます。
一次試験受験者数 | 二次試験受験者数 | 試験合格者数 | 採用者数 |
---|---|---|---|
277(85) | 84(29) | 53(15) | 15(7) |
表のとおり、国家公務員の経験者採用の受験者数は277人で、筆記試験の合格者数は53人、そこから採用されるのが15人です。人事院が実施する共通の試験に合格しても、そこから面接で採用されるのは3分の1程度です。
また、各省庁の選考採用も、毎年数人かゼロ人の採用と少ないため、同様に合格の難易度は高いといえます。
内閣官房の公募一覧のページをみても、募集している省庁は全体のうち一部であり、ほとんどが1名採用と記載されています。
実際の倍率は非公表ですが、筆記試験を受ける必要がない選考採用は多くの方から注目されており、例年高い倍率が見込まれます。
採用されるためには、それぞれの省庁や募集ポストに対応した万全の面接対策が必要不可欠です。
参照:内閣官房「公募情報一覧」
経験者採用で入省した国家公務員のキャリア・待遇
経験者採用に合格して入省した国家公務員のキャリア・待遇の特徴として、以下の2つが挙げられます。
- 国家総合職・一般職ともにプロパー職員と同じキャリアを歩む
- 職階や給与は同年次のプロパー職員と揃えられる
それぞれ詳しくみていきましょう。
国家総合職・一般職ともにプロパー職員と同じキャリアを歩む
国家公務員の経験者採用で入省すると、国家総合職・一般職ともにそれぞれの職種のプロパー職員(新卒から入省した職員)と同様のキャリアを歩みます。
国家総合職は政策の企画・立案を行い、組織の中核を担うジェネラリストです。一方で、国家一般職は政策の実行を担うプロフェッショナルとして経験を積んでいきます。
元国家公務員である筆者の省庁でも、経験者採用の職員はプロパー職員と同じようにさまざまな中核ポストへ登用されていました。
実際に経験者採用で入省した職員のキャリアや思いは、内閣官房の特設サイトでも確認できます。
参照:内閣官房「国家公務員 中途採用情報サイト」
職階や給与は同年次の職員と揃えられる
国家公務員の経験者採用で入省した場合、採用後の職階(役職)や給与は同年次の職員と揃える決まりとなっています。
霞ヶ関では「~年入省」の呼び方で年次をもとに職員をまとめることが多く、経験者採用の職員は経験年数をもとに、近い年次のメンバーに加えられているのが実態です。
また、給与についても、経験年数を入省後の年数に置き換えて、同等に年数を積んでいる国家公務員の俸給(基本給)をもとに設定されます。
国家公務員の経験者採用に合格する人の特徴
国家公務員の経験者採用に合格する人の特徴には、以下の4つが挙げられます。
- 実務で活かせる高い事務処理能力がある
- 組織に新たな視点や価値をもたらす可能性が感じられる
- 働き方の実態を深く理解できている
- 一緒に働きたいと思える魅力がある
元国家公務員の筆者が採用面接を担当した経験も交えて紹介します。それぞれ詳しくみていきましょう。
実務で活かせる高い事務処理能力がある
実務で活かせる高い事務処理能力は国家公務員として活躍するために不可欠であり、経験者採用の選考でも確認されるポイントです。
入省後は多くの文献・文章を読み、ミスのないアウトトップを素早く行っていく必要があります。
実際に人事院の筆記試験(基礎能力試験)の問題をみても、論理的思考力や数字の処理能力が求められることが明らかです。
論理的思考力や処理能力を求める問題の例は、以下のとおりです。
また、各省庁の選考採用の場合にも小論文の提出が求められ、リサーチ力や文章力などが細かくチェックされているといえます。
小論文としては、例えば以下のような問題が出題されます。
令和6年度 こども家庭庁補佐級・係長級職員(一般職相当)採用選考 論文試験課題
【課題】
こども家庭庁所管行政において、あなたが考えるこども家庭庁が今取り組むべき政策課題について、理由を述べながら1つ取り上げるとともに、その政策課題への対応策を具体的に述べてください。また、あなたがこども家庭庁職員として、その対応策を実施するに当たって活かすことができる自身の経験や専門性について述べてください。(2,000字以内)
引用:こども家庭庁「選考採用 論文試験課題」
このように、事務処理能力の高さは、国家公務員の経験者採用に合格する人がもつべき当然の資質であると押さえておきましょう。
組織に新たな視点や価値をもたらす可能性が感じられる
国家公務員の経験者採用では、面接を通じて、志望者が組織に新たな視点や価値をもたらす人材であるかをチェックしています。
特に、省庁の幹部をはじめ内部の職員は、同質的になりがちな組織に変化を生んでくれる存在を強く期待しています。
筆者の職員時代にも、部局の幹部が若手職員や外部からの出向者に対し、新たな意見やアイディアを求めていたことがよくありました。
民間企業などで得られた知識やスキルが公務にどう活きるかについて、しっかりと言語化できることが、国家公務員の経験者採用に合格する人の条件といえます
働き方の実態を深く理解できている
国家公務員の働く実態についてイメージだけでなく深く理解できていることも、経験者採用で合格する人に必要な要素といえます。
近年、国家公務員の離職率は若手職員を中心として増加傾向にあり、その理由の一つが働き方です。
入省後にすぐ離職してしまうといった事態にならないよう、面接の際には働く実態への理解や覚悟を問われます。
働き方に関する必要な知識を身につけた上で、なぜ自身が厳しい環境でも働き続けられるのか考えておくことがポイントです。
一緒に働きたいと思える魅力がある
国家公務員の経験者採用に合格する人には、能力や仕事への理解だけでなく、一緒に働きたいと思える魅力が備わっています。
採用面接を担当する人事課の職員や他部署の職員は、人事のプロではありません。そのため、評価軸には部下として違和感がないかといった主観的な要素がどうしても入ります。
以下は、実際に筆者が働く中で同僚の公務員に感じていた魅力の一例です。
- 外部からの厳しい指摘や反論もしっかり受け止めて、前向きに楽しみながら議論を深められる
- 関係の上下を問わず常に物腰が柔らかく、多くの人に信頼され慕われる雰囲気がある
- 国会で長時間待機する中でも、ときに仕事外の話もできて長く時間をともにしても楽しい
国家公務員の経験者採用では、人間性の部分も大いにプラス評価されうることを意識しておいて損はありません。
本来誰にでもある個性や魅力を面接官に感じさせられれば、合格が自然と近づきます。
国家公務員の経験者採用の合格に必要な対策
国家公務員の経験者採用の合格に必要な対策には、以下の3つが挙げられます。
- 筆記試験は過去問をみて効率的な対策を行う
- 省庁のミッション・働き方と自身の経験を結び付ける
- 面接の前に現職や元職員にフィードバックをもらう
それぞれ詳しくみていきましょう。
人事院の筆記試験は過去問をみて効率的な対策を行う
国家公務員の経験者採用における人事院の筆記試験に向けては、直近の過去問を分析して、無断のない対策を行う必要があります。
筆記試験はあくまで必要な事務処理能力があるかどうかの確認にすぎず、真に注力すべきは面接対策です。
特に基礎能力試験は例年出題が似通っており、政策の論文試験も慣れが重要なため、過去問をベースに演習を重ねることが重要です。
場合によっては公務員予備校の講座も活用しつつ、無駄なく合格点をとる意識を持ちましょう。
参照:人事院「試験問題例」
省庁のミッション・働き方と自身の経験を結び付ける
国家公務員の経験者採用の面接を通過するためには、省庁のミッション・働き方と自身のこれまでの経験を結びつけて説明する必要があります。
経験と結びついていない誰にでもいえる志望動機だと、長く働き続けられる熱意を感じられないためです。
民間などでの勤務経験やスキルを棚卸ししたうえで、できる限り具体的に深掘りすることがポイントです。
一例として、以下の問を自身に投げかけ、回答をとにかく具体的にブラッシュしてみましょう。
- 自身がこれまでの経験を活かして公務にもたらせる価値はなにか
- 国家公務員だからこそできるアプローチは何か、なぜその立場から取り組みたいと思っているのか
- 自身が希望する職種は日々どんな業務をしていて、自身のスキルがどのように役立つか
国家公務員の経験者採用でアピールすべき要素は、知識や経験の多さではなく、思考の枠組みや思いの方であると意識することをおすすめします。
現職や元職員からの情報収集やアドバイスの機会を得る
国家公務員の経験者採用に向けた対策として、省庁で働く現役の職員や元職員からのリアルな情報の収集やアドバイスの機会を得ることも重要です。
特に、働き方は内部の職員にしかみえない事情が多くあり、経験に基づく話を聞くことで一気にイメージが広がります。
また、実際に評価をしている職員による面接練習を受ければ、ついつい生じてしまう採用側と応募者側のアピールポイントのズレを解消可能です。
自身で機会を見つけるのが難しい方に向けては、元職員の筆者が個別サポートのサービスを提供しています。
現役の職員には難しい、フラットな視点で情報提供できることが強みです。
面接で評価されるポイントを知れば、自信をもって選考に臨めるようになるので、ぜひご活用ください。
国家公務員の経験者採用試験は万全の準備をして合格しよう
国家公務員の経験者採用は、民間企業などで経験を積んだ即戦力人材を確保するための重要な制度です。
一方で、高倍率で難易度が高い試験であり、合格のためには正しい方向性にもとづき効率的に対策する必要があります。
合格する人の特徴としては、事務処理能力の高さや働き方への深い理解に加えて、人間的な魅力も挙げられます。
本記事を参考にして経験者採用試験に万全の準備で臨み、国家公務員として活躍する未来を実現しましょう。
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