国家公務員・地方公務員の退職金(退職手当)は、転職や独立など自己都合退職をする方にとって重要な資金源です。
しかし、制度が複雑で分かりづらく、実際にもらえる金額や注意点に関しても情報があまり出回っていません。
「平均額はどれくらいか」「金額をシミュレーションしたいが計算方法が分からない」「損をしないためにはどうすればよいか」など、疑問や悩みをお持ちの方も多いのではないでしょうか。
退職日を決める前に仕組みを深く理解していないと、退職金で大きく損をする可能性があるので注意が必要です。
本記事では、元公務員の筆者が、退職金の制度や平均額、計算方法・シミュレーション、注意点、実例について経験を交えて解説します。
退職金を計画的にもらって次の道へスムーズに踏み出せるよう、ぜひ最後までご覧ください。
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公務員の退職金に関する制度
公務員の退職金(退職手当)に関する制度について、国家公務員と地方公務員でそれぞれ異なります。
まず、国家公務員の場合は「国家公務員退職手当法」で計算方法や支給時期などが細かく定められています。
また、金額については企業規模50人以上の民間企業の水準を踏まえて見直しされているのが特徴です。
(参考:人事院「令和3年民間の退職金及び企業年金の実態調査の結果」)
一方で、地方公務員の場合は「地方自治法」において、国家公務員の制度に準じること、自治体ごとに条例で定めることが決められています。
そのため、地方公務員の場合は国家公務員の制度を参考にしつつ、最終的には条例を確認すればスムーズな理解が可能です。
【参考】
人事院「退職手当の支給」
e-Gov法令検索「国家公務員退職手当法」
総務省「地方公務員の退職手当制度について」
公務員の退職金の平均額
公務員の退職金の平均額について、退職理由や勤続年数別にまとめた早見表を用いて説明します。
以下で紹介する平均額から分かるとおり、公務員の退職金はキャリア後半で伸びるのが大きな特徴です。
国家公務員・地方公務員それぞれ紹介するので、ぜひチェックしてください。
国家公務員の退職金の平均額に関する早見表
内閣人事局が公表している、国家公務員の退職金の平均額に関する早見表は以下のとおりです。
退職理由 | 常勤職員 | 行政職俸給表(一) |
---|---|---|
全平均 | 約1,104万 | 約1,391万 |
自己都合 | 約275万 | 約326万 |
定年 | 約2,112万 | 約2,111万 |
早期退職募集 | 約2,528万 | 約2,250万 |
その他 | 約212万 | 約230万 |
転職や独立など自分の都合で辞める場合は、自己都合の退職にあたります。
国家総合職や一般職などにあたる表の右側の行政職をみると、定年や早期退職の場合は平均額が2,000万円を超える一方で、自己都合の平均額は約360万円です。
また、自己都合退職の勤続年数ごとの退職金は、以下の早見表でまとめています。
勤続年数 | 常勤職員 | 行政職俸給表(一) |
---|---|---|
5年未満 | 25万円 | 24万円 |
5~9年 | 85万円 | 80万円 |
10~14年 | 277万円 | 277万円 |
15~19年 | 526万円 | 517万円 |
20~24年 | 933万円 | 886万円 |
25~29年 | 1,368万円 | 1,272万円 |
30~34年 | 1,675万円 | 1,585万円 |
35~39年 | 1,951万円 | 1,830万円 |
40年以上 | 2,122万円 | 1,989万円 |
平均 | 275万円 | 326万円 |
平均退職年数 | 8年4ヶ月 | 10年7か月 |
表のとおり、勤続年数が20年以下で退職した場合、金額は1,000万円を大きく下回ることがわかります。
全体として、年次が高くなるにつれて金額の上昇率もよくなっていくのが特徴です。
なお、地方公務員も基本的な計算方法は同じなので、おおむね上記の表に近い伸び方をしていきます。
地方公務員の退職金の平均額に関する早見表
総務省が公表している、地方公務員の退職金の平均額に関する早見表は以下のとおりです。
退職理由 | 一般職員 | 教員公務員 | 警察官 |
---|---|---|---|
合計 | 1,236万円 | 1,330万円 | 1,670万円 |
自己都合 | 221万 | 125万円 | 287万円 |
11年~25年勤続の定年 | 1,137万 | 1,096万円 | 1,128万円 |
25年以上勤続の定年 | 2,112万 | 2,260万円 | 2,230万 |
国家公務員と同様に、定年退職と比べると自己都合退職の退職金は大きく下回ることが分かります。
また、職種によって給与形態が異なり、退職金の額にも大きく差があるのが特徴です。
なお、地方公務員の場合は前項で紹介した国家公務員の早見表を参考にしてください。
シミュレーションあり!公務員の退職金の計算方法
国家公務員・地方公務員の退職金の計算方法について、以下の2つに分けて説明します。
- 公務員で共通している計算式
- 計算式にもとづくシミュレーション
計算式やシミュレーションを参考にして、自身がもらえる額を計算してみてください。
公務員で共通している退職金の計算式
国家公務員・地方公務員で共通する退職金の計算式は以下のとおりです。
退職手当=基本額(A退職日の俸給月額×B退職理由別・勤続期間別支給率×調整率)+C調整額
上記の式のA・B・Cそれぞれの金額は、法令で細かく決まっています。
なお、以下では国家公務員の制度をもとに説明しますが、各自治体でもほぼ同様の支給率などが条例で決められています。
【参考】人事院「退職手当の支給」
A.俸給月額
俸給月額は、毎月の給与明細に記載されている基本給のことです。
退職日時点の俸給月額が退職金の計算のベースとして使われます。
なお、地域手当や扶養手当、管理職手当などは含まない点に注意が必要です。
【参考】人事院「俸給表」
B.退職理由別・勤続期間別支給率×調整率
支給率×調整率は、退職理由や勤続年数によって変わる値であり、一覧表は以下のとおりです。
支給率についても勤続年数10年以下は伸びが緩やかであることが分かります。
なお、勤続年数の算出方法については以下のとおり決まりがあります。
- 勤続年数は端数月を切り捨てて年単位で決める
- 1日でも勤務すればその月は勤務したことになる
- 育休や休職などの期間がある場合、その期間の2分の1が除算される
数ヶ月の勤務の差により退職金が1年分変化することがあるので、注意が必要です。
C.調整額
調整額は役職の区分ごとに異なり、具体的な金額は以下のとおりです。
調整額の計算は、在職期間の中で属していた区分を上から60ヶ月とり、各月に区分の調整月額をかけたものを足し合わせます。
たとえば、退職時に6級であり、6級の期間が36ヶ月、それまでは24ヶ月以上5級だった場合は以下のとおりです。
43,350円×36月+32,500円×24月=2,340,600円
また、以下のように調整額が減額される、あるいは支給されない場合があります。
- 勤続10年以上24年以下の自己都合退職者は調整額が半額になる
- 勤続期間9年以下の自己都合退職者には支給されない
計算式にもとづくシミュレーション
一例として、以下の勤続年数15年の国家公務員が自己都合退職する場合の退職金について、計算式にもとづきシミュレーションを行います。
- 課長補佐 6級40号俸(6級の期間は48ヶ月)
- 勤続年数15年0月(育休を6ヶ月取得)
- 自己都合退職
退職手当=基本額(A退職日の俸給月額×B退職理由別・勤続期間別支給率×調整率)+C調整額
A、B、Cそれぞれの金額をシミュレーションすると以下のとおりです。
A.俸給月額 | ・俸給表をみると、6級40号俸は392,800円 ※参考:人事院「俸給表」 |
---|---|
B.支給率×調整率 | ・早見表をみると、14年は9.64224 ・実際の勤続年数は15年だが、育休を6ヶ月取得しているので2分の1の3ヶ月分が除算され、14年9ヶ月。切り捨てなので14年扱い ※参考:人事院「国家公務員退職手当支給率早見表」 |
C.調整額 | ・6級は43,350円(48ヶ月)、5級は32,500円(12ヶ月) ・勤続年数10年以上24年以下の自己都合退職なので半額になる ※参考:人事院「退職手当の支給」 |
それぞれの数字を計算式に当てはめます。
退職日の俸給月額(392,600円)×【退職理由別・勤続期間別支給率×調整率】(9.64224)+調整額(43,350×1/2×48+32,500×1/2×12)=約502万円
上記も参考にして、ぜひご自身の退職金をシミュレーションしてみてください。
公務員が計画的に退職金をもらうための注意点3つ
公務員が計画的に退職金をもらうための注意点3つを以下のとおりまとめました。
- 金額が大きく変わるタイミングがある
- 税金が引かれる場合がある
- 支給時期は退職日から1ヶ月以内が目安である
退職金は退職後の重要な資金源となるものであり、損をしないためにぜひチェックしてください。
金額が大きく変わるタイミングがある
退職金は勤続年数によって決まり、年数ごとに金額が大きく変わるタイミングがあることに注意する必要があります。
具体的なポイントとしては以下のとおりです。
- 勤続年数は年度単位で変化するので、年度後半で退職すると損になりやすい
- 勤続年数が10年以上の場合は調整額がもらえて大幅に加算される
たとえば、勤続年数が9年から10年になると、支給率は0.5上がるので俸給の半分増加、さらに調整額がもらえるようになり60万円以上増加します。
損をしないためには、退職のタイミングを慎重に考えることが重要です。
税金が引かれる場合がある
退職金は他の給与所得とは別に所得税や住民税などの税金が計算されます。
ただし、以下のとおり控除額が大きいので、退職のうち課税部分がゼロになることも少なくありません。
課税される退職金=(退職金-控除額)×1/2
※控除額は以下のとおり
- 勤続年数が20年以下⇒勤続年数×40万円もしくは80万円のいずれか大きい方
- 勤続年数が20年を超える場合⇒(勤続年数-20年)×70万円+800万円
また、年明け1月以降に退職した場合、原則、その年の5月までに支払う予定の住民税が退職金から一括徴収されます。
シミュレーションで出した金額をもとに、実際の手取り額を確認しておくのがおすすめです。
なお退職前、職場からの案内に従って「退職所得の受給に関する申告書」を提出すれば、職場が控除額を踏まえて源泉徴収するので、自身での確定申告は必要ありません。
【参考】人事院「退職手当制度の概要」
支給時期は退職日から1ヶ月以内が目安である
国家公務員・地方公務員の退職金の支給時期は、退職日から1ヶ月以内が目安です。
いずれも法律で定められている手続きのため、期限内には確実に振り込まれます。
たとえば、5月1日や5月31日に退職した場合の振り込みはいずれも6月中です。
決まった期間の中で実際にいつもらえるかは職場や時期によって異なるため、もっとも遅くなるケースを念頭に資金計画を立ててみてください。
【参考】
e-Gov法令検索「国家公務員退職手当法」
e-Gov法令検索「地方自治法」
【経験談】公務員の退職金の実例
公務員の退職金は、制度だけではなく実例をみて理解を深めることが大切です。
国家公務員として新卒から約7年勤めた筆者の経験を踏まえ、以下の2つに分けて解説していきます。
- 筆者が実際に受け取った金額と税金
- いつ辞めるべき?退職タイミングと退職金に関する実体験
筆者が実際に受け取った金額と税金
筆者が公務員を辞めて退職金をもらったときのステータスは以下のとおりです。
- 係長 3級25号俸
- 勤続年数7年弱(育休などなし)
- 自己都合退職
上記をもとに俸給月額や支給率などを計算式に当てはめると81万円であり、実際の金額どおりになりました。
退職日の俸給月額(267,600円)×【退職理由別・勤続期間別支給率×調整率】(3.0132)+調整額(0円)=約81万円
※税金の控除額:20万円×6年(勤続年数)=120万
若手のうちは税金の控除額がもらえる額に比べると大きいため、税金が課されることはありません。
また、勤続年数が10年未満だと調整額はまったく入らないので、金額としてはなかなか伸びづらい特徴があります。
退職金も踏まえ辞めるタイミングを決めた実体験
筆者の事例の場合、年度の後半で公務員を辞めているため、退職金の観点からはやや損なタイミングといえます。
判断の理由としては、実際に辞めるタイミングを決める際に、以下のように他にも様々な考慮要素があったためです。
- ボーナスがもらえるタイミング(6月、12月)
- 有給付与(年初or年度初め以降)の時期
- 転職や起業の準備が整ったタイミング
- 職場の引き継ぎがうまくいく節目
上記の事情を総合的に考え、結果として退職金の金額は優先順位を下げることになりました。
ポイントは、しっかりとシミュレーションをして、自身にとってもっとも損がないよう計画的に退職を進めることです。
引き継ぎや後任のケアももちろん大切ですが、最後は自分の都合を最優先に考えるのをおすすめします。
【関連記事】「公務員を辞めるベストなタイミングは?退職の申し出時期や手続きも解説」
退職金を計画的にもらって公務員の次のステージへ
本記事では、公務員の退職金の制度や平均額、計算方法、注意点、実例について解説してきました。
国家公務員・地方公務員ともに勤続年数別の平均額をみると、年次が高いほど退職金の伸び幅が大きいことが分かります。
特に勤続年数は退職金の金額を大きく左右するものであり、損をしないためには辞めるタイミングに注意が必要です。
一方で、退職タイミングを決めるには、他にもボーナスや退職後の事情などさまざまな要素があり、退職金はあくまで一要素といえます。
公務員の次のステージへスムーズに進むため、本記事を参考に損をしない退職計画を立ててみてください。
なお、退職前後の計画を綿密に立てるためには、本記事で紹介したように退職を経験した職員の声が参考になります。
元国家公務員・現フリーランスの筆者は、公務員の退職者向けの相談サービスを実施しています。
特に公務員からフリーランスになる方に、実体験に即したアドバイスや情報提供ができるのが強みです。
損をしない退職計画を立てて、新たな道へスタートダッシュを切れるようサポートしますので、検討してみてください。
なお、本サイトでは「公務員を辞めたい理由は?退職のメリットや後悔するケースも解説」の記事も掲載しています。
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