国家一般職の年収を詳しく理解すれば、就職の判断やライフプランの設計に役立ちます。
一方で「国家一般職の給料が低いと聞いて心配」「20代や30代にどれくらい稼げるか知りたい」など、疑問や悩みを持っている方も多いのではないでしょうか。
本記事では、元国家公務員が、国家一般職の平均年収や年齢別の年収推移・モデルケース、新卒1年目の初任給、地方公務員や民間企業との比較などについて経験を交えて解説します。
収入面で後悔をしない就職の判断ができるよう、ぜひ最後までご覧ください。
国家一般職の平均年収
人事院の調査によると、国家一般職を中心とする行政職の国家公務員の平均年収は約666万円です(※)。調査対象である職員の平均年齢は42.4歳であり、平均月収の40.4万円に月収の4.4倍であるボーナスを足した金額になっています。
ただし、調査対象の約14.0万人のうち、約1.5万人は昇給の早い国家総合職の職員であるため、実際の国家一般職の平均年収はもう少し低い金額になる点に注意が必要です。
国家一般職の年収は、主に基本給とボーナスを含む各種手当から成り立っています。
基本給は以下のように年次や級ごとに上がる俸給表で細かく決まっており、年功序列で緩やかに上がっていきます。
前述した国家公務員の平均年収はあくまで全年齢の平均であり、20代や30代の平均はさらに低くなる傾向です。
一方で、各種手当は年齢によってそれほど大きな差はなく、ボーナスを除くと主に以下のものを受け取れます。
手当 | 概要 |
---|---|
超過勤務手当 | 基本給を時給に直した上で算出される残業代 |
地域手当 | 東京都特別区は月収の20/100を支給 |
本府省業務調整手当 | 課長補佐は3万9,200円、係長は2万2,100円、係員は8,800円 |
住居手当 | 28,000円までの家賃補助 |
通勤手当 | 55,000円までの交通費を支給 |
扶養手当 | 家族ごとに以下の金額を支給 ・配偶者 6,500円 ・子ども 10,000円(16~22歳はプラス5,000円) ・父母等 6,500円 |
同じ国家一般職でも、本府省勤務の場合に地域手当や本府省業務調整手当が加算されるのに対して、地域機関勤務の場合は年収がやや低い傾向があります。
※参照:人事院「令和5年国家公務員給与等実態調査」
国家一般職の年齢別の年収推移・モデルケース
人事院の資料によると、国家一般職の年齢別の年収推移・モデルケースは以下のとおりです。
役職 | 年齢 | 月収 | 年収 | |
---|---|---|---|---|
本府省 | 係員 | 18歳 | 21万円 | 330万円 |
22歳 | 24万円 | 390万円 | ||
30歳 | 30万円 | 480万円 | ||
係長 | 35歳 | 35万円 | 580万円 | |
40歳 | 38万円 | 630万円 | ||
課長 | 50歳 | 65万円 | 1070万円 | |
地方機関 | 係員 | 18歳 | 17万円 | 270万円 |
22歳 | 20万円 | 320万円 | ||
30歳 | 24万円 | 390万円 | ||
係長 | 35歳 | 28万円 | 460万円 | |
40歳 | 30万円 | 500万円 | ||
課長 | 50歳 | 41万円 | 680万円 |
※地方機関は人事院のモデルケースをそのまま引用。本府省は地方機関のモデルケースに地域手当(俸給の20%)と本府省業務調整手当(係員8,800円、係長22,100円、課長130,300円)を足して算出。金額はあくまで目安。
国家一般職の本府省職員でみると、22歳の若手の係員で年収約390万円、30歳になると約480万円、40歳で約580万円へ到達します。本省の職員は東京勤務であり地域手当が約20%加算されるため、地方機関の職員よりはやや高めです。
ただし、モデル年収はあくまで基本給であり、残業代が含まれないことに注意する必要があります。
例えば、国家一般職の係員の場合は残業代が時給換算で約1,500円程度なので、もし30時間残業した場合は基本給に月5万円、年収にすると約60万円の加算です。
実際には職員によって昇進スピードなどが異なるため、モデル給与はあくまで目安ですが、ライフプランを立てる際の参考にしてください。
国家一般職の新卒1年目の年収
令和5年入省・国家一般職の新卒1年目の基本給(初任給)と年収をまとめると、以下のとおりです。
採用区分 | 月収 | 年収 |
---|---|---|
大卒・本府省勤務 | 24万円 | 390万円 |
大卒・地方機関勤務 | 21万円 | 330万円 |
高卒・本府省勤務 | 20万円 | 320万円 |
高卒・地方機関勤務 | 17万円 | 270万円 |
例えば、本府省勤務をみると、国家一般職の大卒の初任給は年収換算で約390万円、高卒の初任給は約330万円と年齢によって違いがあります。
なお、モデル給与と同様、上記には残業代が含まれていないため、もし残業が多い部署の場合は年収が増える点は押さえておきましょう。
国家一般職と地方公務員・民間企業の年収水準を比較
国家一般職の年収を地方上級や民間企業の年収と比べると、以下のことがいえます。
- 地方公務員との差は自治体規模によって異なる
- 民間企業の平均と水準はほとんど変わらない
国家一般職の年収が低いかどうかは人によって感じ方が異なるので一概にはいえませんが、併願先との比較は一つの基準といえます。
それぞれの比較を詳しくみていきましょう。
地方公務員との差は自治体規模によって異なる
国家一般職の年収を地方公務員の年収を比較すると、どちらが高い・低いかは自治体規模によって異なります。
総務省の調査をもとに国家公務員と地方公務員の一般行政職(大卒)の初任給を比較したデータは、以下のとおりです。
採用区分 | 月収 | 年収 |
---|---|---|
国家公務員 | 18.2万円 | 278.5万円 |
都道府県 | 18.7万円 | 289.9万円 |
指定都市 | 18.3万円 | 283.7万円 |
市 | 18.5万円 | 286.8万円 |
町村 | 18.2万円 | 282.1万円 |
特別区 | 18.4万円 | 285.2万円 |
※月収は元データから。年収は初年度分のボーナスを3.3か月分と仮定して算出。
※国のデータは本記事の他の箇所と時点や整理が違うため金額に差がある。
表のとおり、国家一般職を中心とする国家公務員の初任給が年収278.5万円であるのに対し、都道府県庁の職員が年収289.9万円、指定都市の市役所の職員が約283.7万円などと、自治体規模によって差が異なります。
そのため、併願先のどちらの年収が高いか厳密に比較したい場合には、受験する自治体の資料を調べる必要があります。
ただし、国家一般職と年収の差がもっとも大きい都道府県庁の年収と比較しても、年収換算で約10万円程度の差です。
通常、10万ほどの差は超過勤務手当などによってすぐに埋まるので、年収以外のやりがいなどの要素を重視すべきといえるかもしれません。
民間企業の水準とほとんど変わらない
国家一般職と民間企業の平均年収の水準を比較すると、ほとんど差が生じないようになっています。
国家公務員の年収は民間企業との不公平が生まれないよう、民間企業の平均年収にあわせて年収が毎年調整され、差額分を支給・徴収する仕組みになっているためです。
ただし、調整の根拠となる民間企業は「従業員規模50人以上」とされているため、全ての民間企業全体と比較すると、国家公務員の年収が高めといわれることがあります。
また、民間企業ごとに初任給や年収カーブが異なることはいうまでもありません。就職の判断にあたっては、上記の目安を参考にしつつも、実際の併願先の年収と比較しながら検討することをおすすめします。
参照:人事院「本年の給与勧告のポイントと給与勧告の仕組み」
国家一般職の年収に関して知っておくべきこと
国家一般職の年収に関して知っておくべきこととして、以下の3つが挙げられます。
- 業績の待遇への反映は不十分である
- 不景気でも給料の水準が安定している
- 給料を引き上げる動きがある
年収の水準データは就職の重要な判断要素ではありますが、データだけでは見えづらい実態も押さえておく必要があります。
それぞれ詳しくみていきましょう。
業績の待遇への反映は不十分である
国家一般職の年収に関するマイナス面としては、民間企業と比較すると、業績が待遇に反映されにくい点が挙げられます。国家公務員全体が年功序列であるため、年次の差は埋まにくく、年収もモデル給与からそれほど大きく変化はしません。
また、ボーナスは以下の表のとおり成績評価に応じて月収の最大200%まで加算されますが、多くの職員は「優秀」評価どまりで月収の119%までの加算に留まります。
成績評価 | ボーナスの加減割合 |
---|---|
特に優秀 | 119%~200% |
優秀 | 107.5%~119% |
良好 | 96% |
良好でない | 87.5% |
そのため、年収のインセンティブをとにかく多くもらいたいと考える方に、現段階で国家一般職はおすすめできません。自身の価値観に照らして問題ないかどうか、国家一般職への就職は入念に検討しましょう。
ただし、令和6年からの新たな待遇改善として、ボーナスが月収の300%まで加算される方針で進められており、今後も引き続き見直される可能性があることも事実です(※)。
※参照:人事院「本年の給与勧告のポイントと給与勧告の仕組み(令和6年8月)」
不景気でも給料の水準は安定している
国家一般職の年収水準は一般的にみて高いとはいえないかもしれませんが、不景気でも給与が安定しているのは大きなメリットです。
現在は景気がよく民間企業の人気が高まっていますが、公務員の安定性は危機時にありがたみを感じられる要素といえます。
実際にコロナ禍では、企業によってはボーナスの大幅な減額などが行われましたが、国家公務員の年収は1%に満たない減額であり、ボーナスも水準はほぼ変わりませんでした。
また、危機時には国家公務員の仕事は忙しくなる傾向にあり、当時国家公務員だった筆者や同僚の年収は、残業代によって数百万円の単位で増加しました。
毎年の収入や生活を安定させたい場合には、国家一般職への就職は有力な選択肢の一つといえます。
給料を引き上げる動きがある
国家一般職の年収を含め、近年は特に若手を中心として国家公務員の給料を引き上げる動きが進んでいます。昨今は若手の離職が増えており、待遇の改善によって優秀な人材を確保しようという流れがあるためです。
例えば、令和5年には初任給が以下のとおり大幅に上昇しました。
区分 | 引上げ前 | 引上げ後 |
---|---|---|
本省・一般職(大卒) | 月22.9万(年338万) | 月24.3万(年359万) |
地方・一般職(大卒) | 月18.5万(年274万) | 月19.6万(年292万) |
地方・一般職(高卒) | 月15.5万(年229万) | 月16.7万(年248万) |
国家一般職(大卒)でみると、本省勤務の場合は年収が338万円から359万円へ約21万円の増加、地方勤務の場合も274万円から292万へ約18万円の増加であり、33年ぶりの高水準の改定です。
このほかにも、以下のとおりさまざまな待遇改善が進められています。
- 2年目以降の基本給も、係員は2.8%~5.2%、係長も1.0%の水準で引き上げ
- ボーナスを0.10月分増やして4.4月分から4.5月分へ
国家一般職の年収に関して改善の取り組みがなされていることは、就職の判断にあたって知っておくべきポイントです。
参照:人事院「本年の給与勧告のポイントと給与勧告の仕組み」
国家一般職の年収は幅広い視点で理解して就職を検討しよう
国家一般職の年収は、地方公務員や民間企業の平均的な水準と大きく変わらず、低いと感じるかは人それぞれです。
業績を年収に反映するのは難しく、人によってはモチベーションを維持しにくい可能性があります。
一方で、国家一般職の年収は景気変動の影響を受けにくく、長期的に見れば安定性の高さが魅力です。近年は初任給の引上げをはじめ、待遇改善の動きも進んでいます。
国家一般職への就職を検討する際は、年収の高い・低いだけでなく、メリット・デメリットを幅広く理解した上で判断することが大切です。
また、仕事への理解をより深めるためには、説明会やOB訪問など志望する省庁の職員と話す機会を積極的に見つける必要があります。
本記事の筆者も、公務員志望の方を対象に就職相談・面接対策のサービスを実施中です。
筆者は元国家総合職ですが、多くの国家一般職の方と仕事をしてきたため、国家一般職に関しても理解が深まるようサポートできます。
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