国家公務員・地方公務員をいつ辞めるタイミングを決める際には、金銭面や退職後の事情、職場への配慮など幅広い視点から考える必要があります。
退職を検討中の方には「退職のタイミングはいつがベストか」、「何ヶ月前までにどういう申し出ればよいか」など、疑問を感じている場合もあるのではないでしょうか。
そこで本記事では、元公務員の筆者が、公務員を辞めるベストなタイミングや申し出時期、手続きの流れ、辞める前に知っておくべきことについて、経験を交えて解説します。
公務員をスムーズに退職して新たなフィールドで活躍できるよう、ぜひ最後までご覧ください。
公務員を辞めるタイミングは収入面なら6月がベスト
公務員を辞めるベストなタイミングとして、収入面で考えると夏のボーナスを受給した後の6月頃がもっともお得です。
6月頃に公務員を退職するのがお得になる主な理由には、以下が挙げられます。
- ボーナスをもらえるのは6月頃と12月頃のため
- 退職金は勤続年数に応じて増えるため
- 年初か年度初めに有給休暇が付与されるため
それぞれの理由を詳しくみていきましょう。
ボーナスをもらえるのは6月頃と12月頃のため
公務員がボーナスを受給できるのは6月頃と12月頃のため、いずれかのタイミングで辞めるとボーナスのもらい損ねがありません。
公務員でボーナスがもらえるのは「6月1日」・「12月1日」に在籍していた職員です。ボーナスをもらうためには、有給消化も含めて基準日に在籍している必要があります。
見落としがちなポイントは、基準日前1ヶ月以内にやめた場合も支給対象になることです。そのため、5月1日以降か11月1日以降に辞めた場合には、ボーナスは受給できます。
なお、ボーナスの基準日に関して、国家公務員の場合は人事院規則に、地方公務員の場合は条例などに規定があります(※)。地方公務員の方は条例をチェックしましょう。
※参照:e-Gov法令検索「人事院規則」
退職金は勤続年数に応じて増えるため
公務員の退職金(退職手当)は勤続年数に応じて支給割合が増えるため、年度の途中で出来るだけ長く辞めたとしても金額は変わりません。
国家公務員・地方公務員ともに退職金の計算式は、以下のとおりです。
退職金=基本額(退職日の俸給月額×退職理由別・勤続期間別支給割合)+調整額
上記のうちの「退職理由別・勤続期間別支給割合」は月数ではなく年数で割合が変わる仕組みになっています。
なお、勤続年数は4月1日ではなく3月1日を区切りとして1年加算される点には注意が必要です。月のうち一日以上勤務することでその月は勤務したと認められるため、3月1日に勤務した時点で年度末まで働いたとみなされる制度になっています。
このように、基本的には3月1日以降のできる限り早いタイミングで辞めるのがお得です。
実際の退職金の違いをみると、例えば9年間勤務の支給額は俸給月額の4.5倍、10年勤務は5.0倍、11年勤務は7.4倍です。仮に俸給月額が30万円だとして、勤続年数が1年ずれると数十万円単位で変わることが分かります。
なお、育休などで勤務していない期間があると、勤続年数からその期間の2分の1が除かれるので注意が必要です。
年初か年度初めに有給休暇が付与されるため
公務員の有給休暇の付与日は年初か年度初めに設定されており、付与されてから日数が経ってないタイミングに辞める方がよりお得といえます。
国家公務員の場合、人事院規則にもとづき、1月1日に新たに20日分の有給が加算されるため、1月1日以降に有給を消化してから辞めるのがベストです(※)。
地方公務員の場合、条例などに年初や年度初めなどと規定されているので、ホームページなどで確認する必要があります。
なお、有給取得は労働者の当然の権利のため、ためらわずにできる限り消化する方向で退職スケジュールを検討しましょう。
※参照:人事院「人事院規則一五―一四(職員の勤務時間、休日及び休暇)」
公務員を辞めるタイミングは収入面以外にも考慮する要素がある
公務員を辞めるベストなタイミングは、収入面以外にも以下のような観点から考えられます。
- 転職や起業の都合に合わせた時期がよい
- 職場の引き継ぎがうまくいく節目が望ましい
それぞれ詳しくみていきましょう。
転職や起業の都合に合わせた時期がよい
公務員を辞めるタイミングとして、ボーナスなどの一時的な収入面ではなく、転職や起業といった次のキャリアの都合を優先する方がよい場合があります。
現状のライフスタイルなどによりますが、多少の金額の違いであれば、転職や起業後にしっかりと働けば数ヶ月で取り返せるものです。
特に転職をする方でまだ入社日が決まっていない場合、あらかじめ自身が希望するタイミングを整理した上で、転職先との調整に臨むことをおすすめします。
元公務員である筆者の周囲で転職した同僚も、本来は四半期のタイミングの入社が一般的だったものの、交渉によって希望どおりの時期に入社できたケースがありました。
次の仕事との兼ね合いは、長い目でみたときには重要な視点といえます。
職場の引き継ぎがうまくいく節目が望ましい
現在勤務している部署や担当するプロジェクトの引き継ぎを万全に終えられるかどうかも、公務員を辞めるタイミングとして検討すべきポイントです。
年度途中や月の途中に突然退職すると、職場に少なからず負担や迷惑がかかる可能性があるためです。
公務員を退職しやすい具体的な節目としては、以下の時期が挙げられます。
- 年度末(3月)
- 年度の中間期(9月~10月)
- 大型プロジェクトや予算の執行が一段落した時期
ただし、職場への配慮は大切な要素ですが、重視しすぎると自分が損をしてしまう場合があります。
筆者も公務員を年度途中に辞める決断をしたものの、職場への影響を最小限に抑えるために以下の工夫を行いました。
- 引き継ぎマニュアルを刷新して、後任者が円滑に引き継げるよう準備
- 進行中あるいは当面の案件は、方向性を明確にして残された課題を整理
- 退職後の一定期間は、メールや電話で後任者や同僚をフォロー
職場に迷惑をかけないよう最大限配慮しながら、あくまで自己都合のタイミングで辞めるのが後悔しない選択につながります。
公務員を辞める意向の申し出時期は何ヶ月前がよい?
公務員を辞める意向の申し出時期に関しては、以下の点を押さえておきましょう。
- 制度で決まっている期日までに退職を申し出る必要がある
- 2ヶ月前~3ヶ月前に退職を申し出れば後任を調整しやすい
それぞれの点を詳しく説明します。
制度で決まっている期日までに退職を申し出る必要がある
公務員を辞める意向の申し出時期が職場の制度で決まっている場合は、ルール通りのタイミングで申し出る義務があります。
制度は国家公務員と地方公務員で異なり、地方公務員の場合は自治体によっても差がある点に注意が必要です。
国家公務員の規則は以下のとおりで、退職の申し出の時期に関して明文化はされていません。
人事院規則八―一二(職員の任免)
引用元:e-Gov法令検索「人事院規則八―一二(職員の任免)」
(辞職)
第五十一条 任命権者は、職員から書面をもって辞職の申出があったときは、特に支障のない限り、これを承認するものとする。
一方で、地方公務員について、例えば東京都庁の場合は以下のとおり10日前までに退職願を提出するとされています。
東京都職員服務規程
引用元:東京都例規集データベース「東京都職員服務規程」
(退職)
第十四条 職員は、退職しようとするときは、特別の事由がある場合を除き、退職しようとする日の十日前までに、退職願を提出しなければならない。
退職意向の申し出時期に間違いがないよう、お勤め先の規定をしっかりと確認しましょう。
2ヶ月前~3ヶ月前に退職を申し出れば後任を調整しやすい
公務員を辞める意向を退職の2ヶ月前~3ヶ月前に申し出れば、職場としては後任を調整する時間に余裕が生まれます。
特に4月や9~10月といった異動時期以外に辞める場合、後任の確保には長い時間を要することが一般的です。そのため、できる限り早めの申し出が理想ではあります。
実際の事例として、筆者が所属していた省庁において、年度途中で急遽辞める職員の後任が4月まで配属されず、欠員のままだったケースが複数ありました。
また、辞める意向を早めに伝えることで、職場の理解を得やすくなるのもポイントです。急な申し出では、職場の業務に支障をきたす懸念があり、円満な退職が難しくなる恐れがあります。
自分の都合を最優先にしつつ、可能な範囲で早めに伝えるスタンスがおすすめです。
公務員を辞める手続きの流れ【経験談】
公務員を辞めるために必要な手続きの流れは、以下の5つに分けられます。
- 直属の上司に辞める意向を伝える
- 人事担当に報告する
- 部署内やお世話になった方に報告する
- 退職届などの必要書類を提出する
- 最終日には職場に挨拶する
それぞれ詳しくみていきましょう。
1.直属の上司に辞める意向を伝える
まずは直属の上司に退職する意向やタイミング、理由などを伝える必要があります。業務の合間に声をかけて、情報が洩れない別室などで行うのがおすすめです。
もっとも重要なポイントは、公務員を辞める意思をしっかりと示すことです。曖昧な伝え方だと、まだ続ける可能性があると思われ、自身にも職場にも無駄な時間と労力がかかります。
実際に筆者は退職を申し出た際、以下のようにさまざまな言葉で引き止められました。
「公務員のままでもやりたいことにも挑戦できるんじゃないか」
「業務のために一ヶ月でも長く残って欲しい」
「公務員としては評価されていても他で通用するかは分からない」
職場からの引き止めに感謝を示しつつ、「もう覆しようがない」と思わせる伝え方が必要です。筆者の場合には以下のポイントを強調しました。
- 次のキャリアの準備状況について、具体的な進捗を交えて説明する
- 公務員としてのキャリアに感謝しつつ、新たなステージで挑戦したい意欲を示す
- 同僚や後任者への引き継ぎについて、万全の準備をしていると伝える
最終的に上司には自身の人生設計に基づく決断であることを理解してもらえ、良好な関係を保って退職できました。
2.人事担当に報告する
上司に対して辞める意向を伝えたあとには、退職の手続きを行う人事担当に報告を行います。上司と話す際に、このあと人事担当にも話をすると一言伝えておくとスムーズです。
人事担当とは、より具体的にタイミングや手続きの相談をする可能性があるので、有給の消化も含めて考えを整理しておく必要があります。
筆者が人事担当へ報告した際には、再度翻意を求められたうえで、以下の手続きに関する相談をしました。
- 希望する退職日と、その日程で問題がないか確認する
- 有給休暇の残り日数をもとに、消化方法を相談する
- 有給消化中の後任へのコンタクト方法を確認する
有給については後任の調整や引き継ぎ、手続きなどの関係で、すべてを消化できないかもしれません。
例えば、保険や年金の切り替えの手続き上、月末の退職の方がスムーズな場合があり、実際に筆者も有給を数日残して退職しました。
いずれにせよ、人事担当とスムーズに調整できるよう、本メディアも参考にしてあらかじめ必要な知識を十分に持っておきましょう。
3.部署内やお世話になった方に報告する
人事担当との調整が終わったあとには、部署内やお世話になった方に対して公務員を辞める意向を直接報告しましょう。
周囲への報告を人事担当との調整前にすると、話した内容が先に人事課や上司へ伝わってしまう可能性があるため、注意する必要があります。
筆者が自身の関係する方へ退職する旨を報告した際には、以下の点に気を付けました。
- 退職の日程などがすべて正式に確定してから伝える
- 挨拶先は現在の関係者だけでなく、入省時から振り返ってリストアップする
- 対面の挨拶が難しい人にはメールだけでも送るようにする
転職先にも寄りますが、退職後にも昔の役所の知り合いと関わる場合もあるかもしれません。これまでのネットワークを大切にしながら、新たな人脈を広げていくことが理想です。
4.退職届などの必要書類を提出する
退職に向けた調整が一通り終われば、人事担当の指示に従って、退職届などの必要書類を提出します。
筆者が国家公務員の退職書類として実際に提出を求められたものは、以下のとおりです。
- 退職届(様式をもらって自筆)
- 退職金関連の書類(振り込み先、税務署に提出するもの)
- 保険や年金関係の切り替えのための書類
退職届や退職金関連の書類はテンプレートがあるはずなので、それに従えば問題ありません。
また、保険の書類や源泉徴収票は退職後に使う機会があるため、手元に残った書類は最低一年間は保存しておくことがおすすめです。
特に、税金などの手続きにあまり詳しくない場合には、保険や年金、確定申告などに関する基本的な本を一冊通読しておくと、損をせずに進められます。
5.最終日には職場に挨拶する
有給休暇の消化を開始する前の最終勤務日には、公務員の仕事中に関わった方々へ挨拶回りをしましょう。
最近はメールで済ませることも多いかと思いますが、特にお世話になった方には直接感謝をすることが理想です。
実際に筆者が挨拶回りをしたときに心がけた点は以下のとおりです。
- 退職理由を聞かれたらポジティブな要素を中心に伝える
- 定時直後や昼休みなど忙しくない時期を見極める
- 不在の場合に備えて、置けるメモをあらかじめ用意しておく
なお、送り出してくれる同僚は公務員として働き続ける決断をしています。
そのため、辞める理由を聞かれた際などには、前向きな気持ちも辞める理由の根底にあることを伝えれば、送る側としても気持ちよく送り出せるはずです。
公務員を辞める前に知っておくべきこと
公務員を辞める前に知っておくべきこととして、以下の2点が挙げられます。
- 社会的信用が落ちる可能性がある
- 退職直後には大きな収入・支出が生じる
それぞれ詳しくみていきましょう。
社会的信用が落ちる可能性がある
公務員を辞めて独立する場合、あるいは転職先の規模によっては、社会的信用が落ちる可能性に注意する必要があります。
公務員はあらゆる職種の中でもっとも信用が高く、信用をもとにさまざまな契約や手続きなどがしやすいことが特徴です。
例えば、公務員の退職後に以下のような契約が難しくなる可能性があります。
- 住宅ローンの借り入れ
- 賃貸借契約による引っ越し
- 各種クレジットカードの作成
もし現段階で何らかの契約を行う見込みがある場合、必要な手続きは在職中に済ませておくことがおすすめです。
退職直後には大きな収入・支出が生じる
公務員を辞めた直後のタイミングには、保険料や税金などの関係で、大きな収入・支出が生じることも押さえておく必要があります。
大きな収入の代表例である退職金は、国家公務員法や地方自治法によって支給時期が決まっています(※1・2)。
いずれの場合も、退職金は退職日から1か月以内に支給され、例えば5月1日や5月31日に退職した場合の振り込みは6月中です。
また、公務員を辞めた後の支出として考えられるものは、以下のとおりです。
- 翌年5月までの残りの住民税
- 年度内の社会保険料(健康・年金)
特に住民税については、年明けの1月以降に退職した場合には5月までの支払い分が一括で退職金から引かれるため、注意が必要です。それ以外の時期に退職した場合にも、一括して支払いができます。
また、社会保険料(健康・年金)について、転職先の保険に間を置かず入れない場合などには、自ら収めることが義務です。
社会保険料は年度末までの分を一括して払うとややお得になるので、月々の保険料からおよその金額を把握しておくことをおすすめします。
※1 参照:e-Gov法令検索「国家公務員退職手当法」
※2 参照:e-Gov法令検索「地方自治法」
公務員を辞める前にタイミングや手続きを入念に検討しよう
公務員を辞めるベストなタイミングは、ボーナスなど収入面はもちろん、退職後のキャリア、職場への配慮などの観点で総合的に考える必要があります。
退職の申し出は、職場の規定で定められた義務を確認しつつ、2ヶ月前~3ヶ月前に実施すると職場にとってスムーズです。本記事を参考にタイミングや手続きを入念に検討し、公務員を円滑に退職しましょう。
また、退職のイメージをより深めたい場合には、実際の退職経験者に話を聞くことも効果的です。本記事の筆者は公務員の退職に関する相談サービスを実施しています。
特に、筆者は国家公務員からフリーランスに転向しているため、独立される方にはさまざまな視点でサポートできます。無料での相談も行っているため、ぜひリンクから詳細をご覧ください。
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