国家公務員・地方公務員の退職金(退職手当)は、制度を深く理解していないと金額が大きく変わり、損をする可能性があります。
「退職金の平均額はいくらか」「実際に金額をシミュレーションしたい」など、疑問や悩みをお持ちの方もいるのではないでしょうか。
本記事では、元公務員の筆者が、退職金の制度や平均額の早見表、計算方法・シミュレーション、注意点、実例について経験を交えて解説します。
退職金を計画的にもらって次の道へスムーズに踏み出せるよう、ぜひ最後までご覧ください。
公務員の退職金制度とは
公務員の退職金制度とは退職金のルールを定めるものであり、国家公務員と地方公務員でそれぞれ異なります。
国家公務員の退職金制度は「国家公務員退職手当法」で、退職金の計算方法や支給時期などが細かく規定されています。
退職金の金額は、企業規模50人以上の民間企業の水準を踏まえて見直しされていることが特徴です。
一方で、地方公務員の場合は「地方自治法」において、退職金は国家公務員の制度に準じること、自治体ごとに条例で定めることが決められています。
そのため、地方公務員の退職金については、国家公務員の制度を参考にしつつ、最終的には条例を確認すればスムーズな理解が可能です。
なお、各制度では退職手当という言葉が用いられることが一般的ですが、公務員の退職金と退職手当に違いはなく、同じものと扱って問題ありません。
参照:人事院「退職手当の支給」
参照:e-Gov法令検索「国家公務員退職手当法」
参照:総務省「地方公務員の退職手当制度について」
国家公務員の退職金の平均額に関する早見表
内閣人事局の調査によると、国家公務員の退職金の平均額に関する早見表は以下のとおりです。
退職理由 | 常勤職員 | 行政職俸給表(一) |
---|---|---|
全平均 | 約1,104万 | 約1,391万 |
自己都合 | 約275万 | 約326万 |
定年 | 約2,112万 | 約2,111万 |
早期退職募集 | 約2,528万 | 約2,250万 |
その他 | 約212万 | 約230万 |
転職や独立など自分の都合で辞める場合は、自己都合の退職にあたります。
国家総合職・一般職など行政職の国家公務員がもらえる退職金の平均額をみると、定年の場合は約2,111万円であるのに対して、自己都合の場合は約326万円です。
また、国家公務員の自己都合退職の勤続年数ごとの退職金は、以下の早見表でまとめています。
勤続年数 | 常勤職員 | 行政職俸給表(一) |
---|---|---|
5年未満 | 25万円 | 24万円 |
5~9年 | 85万円 | 80万円 |
10~14年 | 277万円 | 277万円 |
15~19年 | 526万円 | 517万円 |
20~24年 | 933万円 | 886万円 |
25~29年 | 1,368万円 | 1,272万円 |
30~34年 | 1,675万円 | 1,585万円 |
35~39年 | 1,951万円 | 1,830万円 |
40年以上 | 2,122万円 | 1,989万円 |
平均 | 275万円 | 326万円 |
平均退職年数 | 8年4ヶ月 | 10年7か月 |
表のとおり、国家公務員が勤続年数20年以下で退職した場合、退職金の金額は1,000万円を大きく下回ることがわかります。
全体として、国家公務員の退職金は年次が高くなるにつれて金額の上昇率もよくなっていくことが特徴です。
なお、地方公務員の退職金も基本的な計算方法は同じなので、おおむね上記の表に近い伸び方をしていきます。
地方公務員の退職金の平均額に関する早見表
総務省の調査によると、地方公務員の退職金の平均額に関する早見表は以下のとおりです。
退職理由 | 一般職員 | 教員公務員 | 警察官 |
---|---|---|---|
合計 | 1,236万円 | 1,330万円 | 1,670万円 |
自己都合 | 221万 | 125万円 | 287万円 |
11年~25年勤続の定年 | 1,137万 | 1,096万円 | 1,128万円 |
25年以上勤続の定年 | 2,112万 | 2,260万円 | 2,230万 |
地方公務員の一般職員がもらえる退職金の平均額をみると、定年の場合は約2,112万円であるのに対して、自己都合の場合は約221万円です。
国家公務員と同様に、定年退職と比べると自己都合退職の退職金は大きく下回ることが分かります。
また、職種によって給与形態が異なり、退職金の額にも大きく差があることが特徴です。
なお、地方公務員がもらえる退職金の年齢ごとの推移は、前項で紹介した国家公務員の早見表を参考にしてください。
公務員の退職金の計算方法
国家公務員・地方公務員で共通する退職金の計算方法は、以下のとおりです。
退職手当=基本額(A退職日の俸給月額×B退職理由別・勤続期間別支給率×調整率)+C調整額
上記の式にあるA・B・Cそれぞれの項目は、法令でルールが細かく決まっています。
なお、以下では国家公務員の制度をもとに各項目を説明しますが、各自治体でもほぼ同様の支給率などが条例で決められています。
参照:人事院「退職手当の支給」
退職日の俸給月額
国家公務員の退職金の計算式にある「退職日の俸給月額」とは、公務員の退職日において、給与明細に記載されている基本給です。
俸給月額は人事院が公表している俸給表で規定されており、年次が上がるごとに緩やかに増えていきます。
なお、俸給月額には、地域手当や扶養手当、管理職手当などの各種手当ては含まれない点に注意が必要です。
参照:人事院「俸給表」
退職理由別・勤続期間別支給率×調整率
国家公務員の退職金の計算式にある「退職理由別・勤続期間別支給率×調整率」とは、退職理由や勤続年数によって変わる値であり、一覧表は以下のとおりです。
表のとおり、「退職理由別・勤続期間別支給率×調整率」は勤続年数5年なら2.5、勤続年数10年なら5.0、勤続年数が20年なら19.7と年次に応じて増えていきます。
なお、勤続年数の算出方法については、以下のような決まりがあります。
- 勤続年数は端数月を切り捨てて年単位で決める
- 1日でも勤務すればその月は勤務したことになる
- 育休や休職などの期間がある場合、その期間の2分の1が除算される
数ヶ月の勤務の差により退職金が1年分変化することがあるので、自己都合退職をする際には注意が必要です。
調整額
国家公務員の退職金の計算式にある「調整額」とは、勤続中の貢献度に応じた加算額で、役職が高くなるにつれて上乗せされます。
調整額の具体的な金額は、以下のとおりです。
調整額を計算する際には、在職期間の中で属していた区分を上から60ヶ月とり、各月に区分の調整月額をかけたものを足し合わせます。
例えば、退職時に6級であり、6級の期間が36ヶ月、それまでは24ヶ月以上5級だった場合の調整額は以下のとおりです。
43,350円×36月+32,500円×24月=2,340,600円
また、以下のように調整額が減額される、あるいは支給されない場合があります。
- 勤続10年以上24年以下の自己都合退職者は調整額が半額になる
- 勤続期間9年以下の自己都合退職者には支給されない
調整額は勤続期間10年以上で初めてもらえるものなので、公務員を勤続年数10年付近で退職する方は注意が必要です。
公務員の退職金のシミュレーション
公務員の退職金の金額や計算方法を具体的にイメージできるよう、シミュレーションを紹介します。
ここでは、以下の条件の国家公務員がもらえる退職金を計算します。
- 課長補佐 6級40号俸(6級の期間は48ヶ月)
- 勤続年数15年0月(育休を6ヶ月取得)
- 自己都合退職
前述のとおり、公務員の退職金の計算方法は以下のとおりです。
退職手当=基本額(A退職日の俸給月額×B退職理由別・勤続期間別支給率×調整率)+C調整額
上記を踏めて、計算方法のA・B・Cそれぞれの金額をシミュレーションすると、以下のとおりです。
A.俸給月額 | ・俸給表をみると、6級40号俸は392,800円 ※参考:人事院「俸給表」 |
---|---|
B.支給率×調整率 | ・早見表をみると、14年は9.64224 ・実際の勤続年数は15年だが、育休を6ヶ月取得しているので2分の1の3ヶ月分が除算され、14年9ヶ月。切り捨てなので14年扱い ※参考:人事院「国家公務員退職手当支給率早見表」 |
C.調整額 | ・6級は43,350円(48ヶ月)、5級は32,500円(12ヶ月) ・勤続年数10年以上24年以下の自己都合退職なので半額になる ※参考:人事院「退職手当の支給」 |
それぞれの数字を計算式に当てはめます。
退職日の俸給月額(392,600円)×【退職理由別・勤続期間別支給率×調整率】(9.64224)+調整額(43,350×1/2×48+32,500×1/2×12)=約502万円
上記も参考にして、ご自身の退職金の金額もシミュレーションしてみましょう。
公務員が退職金をもらう際の注意点
公務員が退職金をもらう際の注意点には、以下の3つが挙げられます。
- 金額が大きく変わるタイミングがある
- 税金が引かれる場合がある
- 支給時期は退職日から1ヶ月以内が目安である
それぞれ詳しくみていきましょう。
金額が大きく変わるタイミングがある
公務員の退職金は勤続年数に応じて決まり、年数によっては金額が大きく変わるタイミングがあることに注意が必要です。
特に、勤続年数は年度単位で変化するので、年度後半で退職すると損になりやすい傾向があります。5年10ヶ月働いた場合とちょうど6年働いた場合では、それぞれ退職金の額が大きく異なります。
また、前述のとおり、勤続年数が10年以上の場合は調整額がもらえて大幅に加算される点も重要です。
例えば、勤続年数が9年から10年になると、支給率が増えるのに加えて、調整額だけで退職金は60万円以上増加します。
損をしないためには、公務員を退職するタイミングを慎重に考えることが重要です。
税金が引かれる場合がある
公務員の退職金は、他の給与所得とは別に所得税や住民税などの税金が計算され、支給金額から引かれます。
ただし、公務員の退職金は以下のとおり控除額が大きいため、退職金のうち課税部分がゼロになることも少なくありません。
課税される退職金=(退職金-控除額)×1/2
控除額は以下のとおり
- 勤続年数が20年以下⇒勤続年数×40万円もしくは80万円のいずれか大きい方
- 勤続年数が20年を超える場合⇒(勤続年数-20年)×70万円+800万円
また、年明け1月以降に退職した場合、原則その年の5月までに支払う予定の住民税が退職金から一括徴収されます。
シミュレーションで出した金額をもとに、実際の手取り額を確認しておくことがおすすめです。
なお公務員を退職する前に、職場からの案内に従って「退職所得の受給に関する申告書」を提出すれば、職場が控除額を踏まえて源泉徴収するので、自身での確定申告は必要ありません。
参照:人事院「退職手当制度の概要」
支給時期は退職日から1ヶ月以内が目安である
国家公務員・地方公務員の退職金の支給時期は、法律で定められており、退職日から1ヶ月以内が目安です。
国家公務員は「国家公務員退職手当法」、地方公務員は「地方自治法」に根拠があり、法律に基づくルールのため、必ず期限内に振り込まれます。
例えば、5月1日や5月31日に退職した場合の振り込みはいずれも6月中です。
ただし、決まった期間の中で退職金を実際にいつもらえるかは職場や時期によって異なります。そのため、もっとも遅くなるケースを念頭に資金計画を立てましょう。
参照:e-Gov法令検索「国家公務員退職手当法」
参照:e-Gov法令検索「地方自治法」
【経験談】公務員の退職金の実例
国家公務員として約7年勤めた筆者の退職金を実例として紹介します。
筆者が公務員を辞めたときのステータスは、以下のとおりです。
- 係長 3級25号俸
- 勤続年数7年弱(育休などなし)
- 自己都合退職
上記をもとに俸給月額や支給率などを計算式に当てはめると「81万円」であり、実際にもらった退職期の金額どおりになりました。
退職日の俸給月額(267,600円)×【退職理由別・勤続期間別支給率×調整率】(3.0132)+調整額(0円)=約81万円
※税金の控除額:20万円×6年(勤続年数)=120万
若手のうちは税金の控除額がもらえる額に比べると大きいため、退職金に税金が課されることはありません。ただし、勤続年数が10年未満だと調整額はまったく入らないので、金額としては伸びづらい特徴があります。
また、筆者の事例の場合、年度の後半で公務員を辞めているため、退職金の観点からはやや損なタイミングといえます。
判断の理由としては、実際に辞めるタイミングを決める際に、以下のように他にもさまざまな考慮要素があったためです。
- ボーナスがもらえるタイミング(6月、12月)
- 有給付与(年初or年度初め以降)の時期
- 転職や起業の準備が整ったタイミング
- 職場の引き継ぎがうまくいく節目
上記を総合的に考え、結果として退職金の金額は優先順位を下げることになりました。
公務員を退職する際には、退職金の金額はもちろん、さまざまな観点から自身にとってベストなタイミングを決めることが重要です。
公務員の退職金に関するよくある質問
公務員の退職金に関するよくある質問として、以下の3つを紹介します。
- 退職金は勤続年数1年未満でももらえる?
- 公務員の退職金はなくなる?
- 定年延長したら退職金はどうなる?
- 早期退職制度を利用したら退職金はどうなる?
それぞれ詳しくみていきましょう。
退職金は勤続年数1年未満でももらえる?
公務員の退職金が勤続年数1年未満でももらえるかどうかは、国家公務員と地方公務員で異なります。
国家公務員の退職金の根拠となる勤続年数を算定する際、1年未満は切り捨てです。そのため、国家公務員は原則として1年未満で退職した場合に退職金をもらえません。
ただし「失業者の退職手当」という制度により、失業状態にあるなど一定の条件を満たせば手当をもらえることがあります(※)。
一方で、地方公務員の場合には、自治体ごとに条例でルールが定められています。勤続年数は6ヶ月未満を切り捨てで退職金の支給なし、6ヶ月以上は切り上げで1年とみなし退職金の支給ありとする場合が多いようです。
※参照:内閣官房「失業者の退職手当の支給要件及び支給額算定基準」
公務員の退職金はなくなる?
公務員の退職金は「国家公務員退職手当法」や「地方自治法」などの法令で定められているため、大幅な法改正などがない限りなくなることはありません。
ただし、規則や条例が変更されて、減額などをされることはありえます。
そのため、つみたてNISAやiDeCoなど、老後資産を増やす取り組みを行うと老後の生活も安心になります。
定年延長したら退職金はどうなる?
公務員が定年延長をしても、退職金は実質的に減額されません。
公務員の定年は、現行の60歳から2031年度までに段階的に65歳まで引き上げられ、60歳以降は基本給が7割に減額される制度があるのは事実です。
しかし「ピーク時特例」という特別な計算方法により、定年延長後であっても60歳時点の最高額を基準に退職金が計算される仕組みになっています。
このように、公務員の定年延長は退職金に大きな影響を与えず、むしろ長期勤続者にとって有利な制度設計です。ただし、定年延長にともない退職金の受け取り時期が遅れる点には、注意する必要があります。
参照:内閣官房「国家公務員の60歳以降の働き方について」
早期退職募集制度を利用したら退職金はどうなる?
公務員が自発的な意思で退職を希望する「早期退職募集制度」を利用すると、退職金は原則として割り増しとなります。
早期退職募集制度では、勤続年数が20年以上で、定年前20年以内の公務員は、早期退職の認定を受けると退職金が加算されます。
加算率は、勤続年数1年あたり3%(定年前1年以内は2%)です。ただし、加算は定年引上げ前の定年から15年以内に限定されており、最大で45%まで増額されます。
参照:内閣官房「早期退職募集制度について」
公務員を辞める際には退職金を計画的にもらおう
国家公務員・地方公務員ともに勤続年数別の平均額をみると、年次が高いほど退職金の伸び幅が大きいことが分かります。特に勤続年数は退職金の金額を大きく左右するものであり、損をしないためには辞めるタイミングに注意が必要です。
一方で、退職タイミングを決めるには、他にもボーナスや退職後の事情などさまざまな要素があり、退職金はあくまで一要素といえます。
本記事を参考にして、退職金の金額をシミュレーションしつつ、万全の退職計画を立てましょう。
なお、退職前後の計画を綿密に立てるためには、退職を経験した職員の声も参考になります。
元国家公務員である筆者は、公務員の退職者向けの相談サービスを実施しています。
特に、公務員からフリーランスになる方に、実体験に即したアドバイスや情報提供ができることが強みです。
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