国家公務員の人事評価とは?6段階の割合・分布や昇給・昇格への影響も解説

国家公務員の人事評価とは?

国家公務員の人事評価は、職員のモチベーション向上や給料アップなどに重要な役割を果たします。

一方で「制度が複雑でよく分からない」「実際にどのように運用されているのか」など、疑問を感じている方も多いのではないでしょうか。

本記事では、元国家公務員の筆者が、人事評価制度の概要や6段階の割合・分布、昇給・昇格への影響、改善の動きについて経験を交えて解説します。

人事評価の仕組みを理解すれば、自身のキャリアをより戦略的に設計できるようになります。ぜひ最後までご覧ください。

目次

国家公務員の人事評価とは

国家公務員の人事評価とは、職員一人ひとりの仕事ぶりを多角的に評価して、昇任・昇格や給与への反映、さらには人材育成に活用するための制度です。

令和3・4年に制度が大きく見直され、職員の成長とマネジメント力の強化に重点を置いた内容になっています。

特徴的なのは、職員の意欲を引き出すための「チャレンジ目標」の設定です。通常より困難な目標への挑戦を奨励する仕組みで、職員の成長を促しています。

また、管理職には組織マネジメントの視点が求められるのもポイントです。働き方改革の推進や文書管理の適正化、部下の育成など、組織全体の運営に関わる「マネジメント目標」の設定が義務付けられています。

このように、国家公務員の人事評価は、職員の能力向上と組織全体の成長をともに実現する仕組みとして設計されています。以下、具体的な評価の仕組みと運用方法を詳しくみていきましょう。

参照:人事院「人事評価

能力評価と業績評価の2つの軸がある

国家公務員の人事評価は、職員の働きぶりを多角的に把握するため、「能力評価」と「業績評価」の2つの観点から行われます。

能力評価は、職員が業務で発揮している能力を幅広い視点から評価する制度です。具体的には、以下の評価項目があります。

能力評価の項目
  • 公務員の倫理を守れているか
  • 必要な知識やスキルを習得できているか
  • 円滑なコミュニケーションを取れているか
  • 意欲的に仕事をしているか

一方で、業績評価は、半年ごとの具体的な仕事の成果を評価する制度です。各職員は役職や立場に応じた目標を定め、その達成状況が細かくチェックされます。

日々の業務目標の達成度はもちろん、チームへの貢献や突発的な業務への対応力なども総合的に評価されます。

いずれの評価も、他の職員との比較ではなく、設定された基準に対してどの程度達成できているかを確認する仕組みです。

1年を2タームに分けて評価が行われる

国家公務員の人事評価は、主に1年を2タームに区切って、上司と部下のコミュニケーションのもと進められていきます。

評価付けそのものは、業績評価が10月~3月と4月~9月の半年ごとに行われるのに対して、能力評価は10月~翌年9月の1年間を通して実施されるのが特徴です。

各タームでは、以下のように上司と部下の間でやりとりが行われながら、評価が進められていきます。

時期やりとり
期首上司と部下で目標設定・面談(15~30分)を行う
期中部下は日常業務に取り組み、上司は観察・指導をする
期末部下による自己評価と、上司による評価や結果の開示、面談

特に重視されているのが面談を通じたコミュニケーションです。上司は単に評価をつけるだけでなく、部下の成長につながる具体的なアドバイスを行うことが求められます

なお、国家公務員の入省1年目であっても、人事評価は他の職員と同様に行われます。

6段階で評価がつく

令和4年度以降、国家公務員の人事評価は、より細やかに部下の能力や活躍を把握するために、5段階から6段階に拡充されました。現状の評価基準は、能力評価・業績評価いずれも以下のとおりです。

6段階評価の基準
  • 卓越して優秀(常に高い水準を大きく上回る)
  • 非常に優秀(頻繁に高い水準を上回る)
  • 優良(しばしば高い水準を上回る)
  • 良好(基本的に高い水準の行動をとる)
  • やや不十分(望ましい行動がとられない場合が多い)
  • 不十分(望ましい行動がとられない)

まずは職員自身で評価を行ったうえで、上司によってあらためて正式な評価が行われます。制度上は基本的に「良好」が標準とされており、それより上の評価を得るためには優れた能力や業績が必要という整理です。

評価結果は昇任・昇給や勤勉手当などの処遇に反映されるほか、職員の育成計画にも活用されます。なお、評価結果に納得がいかない場合のために、相談や異議申し立ての制度も整備されています。

人事評価制度をより効果的に活用するためには、、評価者と被評価者の間で積極的なコミュニケーションを図ることが重要です。

国家公務員の人事評価における6段階の割合・分布は?

国家公務員の人事評価において、評価の6段階が実際にどのような割合・分布で運用されているかは、現時点で公表されていません。令和4年に評価が6段階になるよう制度が変更されてからは、調査やとりまとめが行われていないためです。

一方で、人事院は令和元年に評価が5段階だった頃における成績の割合・分布を公表しており、結果は以下のとおりです。

国家公務員の評価の割合・分布
出典:「第5回 人事行政諮問会議 事務局説明資料」(令和6年1月23日)

上記のとおり、能力評価・業績評価ともに、幹部職員では最高のA評価が全体の8割以上を占めています。また、課長級以下の一般職員でも、最高のS評価とA評価を合わせて、6割以上の職員が標準より上の評価を取得しています。

上記はあくまで5段階評価のときのデータであり、現在の6段階評価ではどのような割合・分布になっているかは分かりません。

しかし、6段階評価もあくまで絶対評価のため、実際には標準(良好)よりも高い評価をもらっている職員が多くいる可能性が考えられます

国家公務員の人事評価による昇格・昇給・待遇への影響

国家公務員の人事評価による昇格・昇給への影響として、主に以下の3つのポイントが挙げられます。

  • 昇格・昇任のためには一定以上の評価が必要である
  • 基本給の昇給スピードが異なる
  • ボーナスの金額が増減する

国家公務員の業務は民間企業と異なり、数字によって実績を表しにくいことが特徴です。その中でも、できる限り能力や成果に応じた評価をする仕組みになっています。

それぞれ詳しくみていきましょう。

参照:人事院「人事評価ガイド 2024.04 ver.

昇格・昇任のためには一定以上の評価が必要である

国家公務員が昇格・昇任してより上位の職位に付くためには、一定以上の評価を得る必要があります。

国家公務員では、3級から4級のように一つ上の職務の級に上がることを昇格と呼ぶのに対して、係員から係長になるなど役職が上がることを昇任と呼びます

昇格・昇任それぞれの対応関係は、以下の図のとおりです。

国家公務員の昇格・昇任
出典:人事院「人事評価と評価結果の活用

昇格のためには、直近2年の評価をすべて「良好」(標準的な評価)以上、うち2回は「優良」以上を取る必要があります。

また、課長に昇任するためには、直近2年で「非常に優秀」を1回、「優良」を1回ずつ取ることが必須です。

ただし、実際には標準以上の評価を取れている職員が多いことから、マイナス評価を取らなければ昇格・昇任できるレベルに設定されているといえます。

基本給の昇給スピードが異なる

国家公務員の人事評価の差によって、年収や月収のベースとなる基本給の昇給スピードが異なります。

昇給は毎年1月1日に行われ、5段階の昇給区分(A~E)によって増加幅に差があることが特徴です。

以下の図のとおり、直近1回の能力評価と直近2回の業績評価に応じて昇給区分が決まります。

国家公務員の昇給スピード
出典:人事院「人事評価と評価結果の活用

国家公務員の基本給は「号俸」という数字で決まっており、標準の評価であるCだと4号俸上昇し、評価が一つ変わるごとに2号ずつ上昇幅が変わります(※)。

例えば、勤続年数が数年の係員のA評価とC評価を比べると、4号俸の差がつき、月収の増加幅はおよそ7,000円ほど、年収の増加幅は8万円ほど異なる計算です。

ただし、予算上の制約があるため、A評価は全体の5%、B評価は20%までと決められている点に注意する必要があります。

人事院の調査では、前述のとおり管理職以下の6割が標準以上の評価を取得しているのに対して、昇給面では標準のC評価が全体の6割~7割を占めています

国家公務員の昇給区分の分布
出典:「第5回 人事行政諮問会議 事務局説明資料」(令和6年1月23日)

つまり、人事評価で高評価を得ているものの、昇給には反映されていない職員が一定数いるのが運用の実態です。

※参照:人事院「俸給表」

ボーナスの金額が増減する

国家公務員の人事評価によって、毎年6月と12月にもらえるボーナスの金額も異なります。

国家公務員のボーナスは、勤勉手当と期末手当からなり、通常は月収の4.5月分の金額です。

働いたこと自体への賞与である勤勉手当は、人事評価によって金額が変わりません。一方で、勤勉手当は業績評価に応じて、以下の表のように増減します。

成績増減幅業績評価
特に優秀119%~200%非常に優秀以上
優秀107.5%~119%優良以上
良好96%良好以上
良好でない87.5%やや不十分以上
出典:人事院「国家公務員の諸手当の概要」

評価の高低にともない、勤勉手当の支給額は87.5%〜200%と幅があります。例えば、勤勉手当の基本額が40万円の場合、増減幅は35万円~80万円です。

このように、民間企業と比べるとそれほど大きな差ではないかもしれませんが、国家公務員でも職員のモチベーション向上のため、ボーナスに一定の差が設けられています。

国家公務員の人事評価を改善する動き

近年は、若手を中心とする離職率の増加を踏まえ、職員のエンゲージメントを高める取り組みとして、国家公務員の人事評価を改善する動きがあります。

人事院が公表した令和6年の給与勧告では、能力や実績をより適切に反映する人事評価制度への改革が表明されました。

特に注目したい点は、勤勉手当における支給率(成績率)の見直しです。課長級以下の職員では、最上位の成績区分の支給率を平均支給月数を従来の2倍から3倍へ引き上げるとされています。

また、上位の成績区分の分布率も見直される予定です。具体的には、従来「特に優秀」が上位5%、「優秀」が上位25%であったのに対して、「特に優秀」と「優秀」が上位30%以上とすることで、特に優秀の割合を増やすなど柔軟な評価が可能になります。

他にも、課室長級の職員はより職責を重視した給与体系に見直され、特に成績優秀者は職責の重さによる昇給にプラスして、評価により給料がさらに上がる仕組みにされました。

上記はあくまで国家公務員の人事評価全体としての動きであり、各省庁においても、職務や個人の能力に応じた評価体系の見直し・運用が進められています。

参照:人事院「本年の給与勧告のポイントと給与勧告の仕組み(令和6年8月)」

国家公務員の人事評価の運用や変化を今後も注視しよう

国家公務員の人事評価は、職員のモチベーションや昇給・昇進、ボーナスなどに一定の影響を与える重要な仕組みです。

5段階から6段階で評価されるように見直すなど改革が進められているものの、評価結果の分布と昇給の実態にはズレがあるといった課題もあります。

そのため、成績優秀な職員のボーナスや基本給をさらに引き上げるなど、人事評価の改善に向けた動きが進められています。

国家公務員を目指す方も、すでに働いている方も、人事評価の運用・変化を注視して今後のキャリア形成の参考にしましょう。

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この記事を書いた人

筆者は新卒から国家公務員を約7年間勤め、政策の企画立案・調整、調査研究、国会の対応など多岐にわたる業務に取り組んできました。

現在はフリーランスとしてチームを組んで受託事業を中心に取り組みつつ、自身のビジネスも幅広く展開しています。

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