公務員のボーナスは「景気の影響に関わらず満額もらえるのはおかしい」「税金が元手なのにもらいすぎ」と感じている方もいるでしょう。
公務員のボーナスには、景気に左右されにくい決定プロセスや、民間反映のタイムラグが存在するため、不況時ほど高くみえる傾向があります。
本記事では、元国家公務員の筆者が、公務員のボーナスがおかしいといわれる構造的な理由や、支給額決定のカラクリを徹底解説します。
公務員のボーナスがおかしいといわれる理由

公務員のボーナスがおかしいといわれる主な理由には、以下があげられます。
- 業績連動ではなく法律で支給が保証されている
- 納税者が不況で苦しむなかでも原資が確保される
- 倒産や解雇のリスクがないのに高水準を維持している
民間企業のボーナスと異なり、法律による身分保障や税金を原資とする安定性が特徴です。それぞれ詳しくみていきましょう。
業績連動ではなく法律で支給が保証されている
民間企業のボーナスは業績次第で「支給ゼロ」もありえますが、公務員のボーナスは給与法などで支給月数が決まっています。
2025年の人事院勧告では、民間の賃上げを反映して支給金額が年間4.65ヶ月分(前年比+0.05ヶ月)へ引き上げられました。組織の成果に関わらず、法改正がない限り所定の日に自動的に支給される仕組みです。
就業規則に規定がなければ支払い義務がない民間とは異なり、手厚く保証されている点が、おかしいと批判される要因のひとつです。
参照:人事院「本年の給与勧告のポイントと給与勧告の仕組み」
納税者が不況で苦しむなかでも原資が確保される
公務員のボーナスの原資は税金であり、物価高で国民生活が苦しい状況でも、確実に支給される決まりです。民間の企業がコスト削減に励む中、税金を原資とする公務員が民間大手の賃上げに追随する構造はおかしいとの批判を招く場合があります。
各自治体は財政赤字でも国の勧告に準拠して支給されるケースが多く、財政の実態との乖離に納得できない声もみられます。
倒産や解雇のリスクがないのに高水準を維持している
公務員は倒産や解雇のリスクがほぼゼロであるにもかかわらず、民間平均以上のボーナス水準を維持しています。公務員は「ローリスク・ハイリターン」(安定かつ高待遇)だと受け止められ、それがおかしいといわれる原因のひとつです。
2025年には、人材確保を理由に国家公務員の若手の給与が引き上げられましたが、民間のような解雇リスクを負わずに待遇改善が進むことへの不満もあります。
公務員のボーナス額が決まる仕組みと数字のカラクリ
公務員のボーナスは、人事院が実施する「民間給与実態調査」の結果に基づき、民間企業の平均支給月数と均衡するように決定されます。
毎年の人事院勧告によって、民間の水準に合わせて支給月数を変更するよう国会・内閣へ勧告し、給与法が改正されることで正式な額が決まる流れです。
ここでは、公務員のボーナス額が決まる仕組みと数字のカラクリを以下の3つに分けて解説します。
- 比較対象が従業員100人以上の企業に偏っている
- ボーナス支給がゼロの企業を含まず平均値を算出している
- 民間の反映に1年以上のタイムラグが発生する
それぞれ詳しくみていきましょう。
参照:人事院「本年の給与勧告のポイントと給与勧告の仕組み」
比較対象が従業員100人以上の企業に偏っている
2025年の人事院勧告から、官民の給与を比較する対象がこれまでの従業員「50人以上」から「100人以上」の事業所へ変更されました。人事院は人材獲得競争への対応と説明しており、より規模の大きい企業の賃金動向が強く反映される状態となっています。
特に本府省職員は東京23区の「1,000人以上」規模の本店と比較されるなど、大企業準拠の傾向が強まっています。日本の多数を占める中小企業が比較対象から外れ、実質的に「中堅・大企業準拠」へシフトしているのが現状です。
ボーナス支給がゼロの企業を含まず平均値を算出している
公務員のボーナスは、民間の比較対象事業所のうち「ボーナスを支給した事業所」のデータをもとに支給月数を算出します。そのため、ボーナスが出ない企業の「0ヶ月」が平均値を下げる要因として反映されないとの指摘があります。
経営難の中小企業は最初から比較の土俵に上がりにくい点が、公務員のボーナスは高水準だといわれる一因です。
民間の反映に1年以上のタイムラグが発生する
公務員のボーナスは、不況で民間のボーナスが急減しても、過去の実績をもとに決定済みの額が支払われます。そのため、不況時ほど高くみえる「逆転現象」が起こります。
公務員のボーナスの勧告に使われるデータは、前年8月から当年7月までの1年間の民間支給実績にもとづきます。2025年冬のボーナスには2024年後半の民間業績が反映されており、現在の景気動向とはズレが生じる仕組みです。
実際、リーマンショック時も1〜2年遅れて引き下げられており、このタイムラグが批判を生む要因です。
公務員は本当にボーナスをもらいすぎているのか

ここまで説明した内容を踏まえると、公務員のボーナスは比較的高い水準にあるといえます。一方で、公務員は本当にボーナスをもらいすぎているのかを判断するには、以下のような幅広い観点から検証が必要です。
- 同等の規模を持つ大企業と比べると金額は低い
- 民間が下がれば公務員の支給月数も遅れて下がる
- 年功序列により平均年齢が高く算出額が跳ね上がる
それぞれ詳しく解説します。
参照:人事院「本年の給与勧告のポイントと給与勧告の仕組み」
同等の規模を持つ大企業と比べると金額は低い
公務員のボーナスは、同等の規模をもつ大企業と比べると金額が低い傾向にあります。
2025年の国家公務員の冬ボーナスは、平均約70.2万円が支給されました。給与法の改正にともない、最終的な支給額は平均約74.6万円となります。
一方、東証プライム上場企業の2025年冬ボーナス平均妥結額は87.4万円であり、公務員の最終見込額と比較しても約13万円高くなっています。公務員のボーナス支給額は「大企業基準」で見れば決して「もらいすぎ」とはいえない水準に留まっています。
参照:内閣官房内閣人事局「令和7年12月期の期末・勤勉手当を国家公務員に支給」
参照:PR TIMES「東証プライム上場企業の2025年年末一時金(賞与・ボーナス)の妥結水準調査」
民間が下がれば公務員の支給月数も遅れて下がる
公務員のボーナスは無条件に上がり続けるわけではなく、民間の支給月数が下がれば、人事院勧告を通じて必ず引き下げられます。
2025年は民間賃上げを受けてプラス改定となりましたが、今後景気が後退すれば、翌年以降の公務員ボーナスも削減されます。民間準拠のルールは徹底されており、長期的には民間のトレンドと連動するため、公務員だけが永続的に高給を維持できるわけではありません。
年功序列により平均年齢が高く算出額が跳ね上がる
公務員の平均ボーナス額が高くみえる一因は、終身雇用を前提とした職員の平均年齢の高さにあります。令和7年の人事院勧告資料でもモデルとなる課長は50歳で設定されており、年功序列型の給与体系が色濃く残っています。
若手の給与は決して高くありませんが、民間のように人の入れ替わりで平均年齢が下がることが少ないため、組織全体の平均給与が高く算出されやすい構造です。「もらいすぎ」という印象は、一部の管理職や平均年齢の高さに起因する部分が大きいといえます。
公務員のボーナスの仕組みを理解して不公平感を解消しよう
公務員のボーナスがおかしいと感じられる背景には、大企業中心の比較対象や景気反映のタイムラグなど、制度特有の構造があります。一方で、大企業と比較すれば金額は低く抑えられており、民間の支給水準が下がれば公務員も遅れて減額される仕組みです。
まずはボーナスの決定プロセスを知り、実態を論理的に整理して検証してみましょう。

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